71歳で養成所に入学した芸人・おばあちゃん。「女性に対しておばあちゃんは失礼」と講師が言う中でこの芸名に決まった理由とは
◆おばあちゃん限定 申し訳ないと思いましたが、このように“おばあちゃん限定”の気遣いはいろいろなところにありました。 たとえば、私は足が悪いので、どの授業でも椅子を用意してくださいました。 でも他の生徒は皆、床に座って待機しているため、どうしても目立ってしまいます。だから、最初の授業では必ずと言っていいほど、教室に入ってきた講師が二度見、三度見。 その後、アシスタントを務める1年上の先輩芸人に尋ねます。 「あの人誰? 参観日?」 幾度となく保護者に間違われてきたので、私には慣れっこのやりとりです。 また、芸名が「おばあちゃん」に決まった後には、こんなこともありました。 私のことを聞いた男性講師にアシスタントが「あの方、おばあちゃんです」と答えたところ、「いくつであろうと、女性に対しておばあちゃんは失礼だ。そういう言い方をしてはいけない」と注意してくださったんです。 すぐに私がフォローすればよかったのですが、緊張のあまり口を挟めず……。 結局、私がネタを見せる際に「おばあちゃんです」と自己紹介をしたら、ハッとした顔をして気づいてくださったようです。 アシスタントの先輩芸人には悪いことをしました。
◆なぜ「おばあちゃん」 そうそう、なぜ芸名が「おばあちゃん」になったのか。 実は、発案者は私ではありません。同期の男の子のひと声で決まりました。 というのも、ある日のネタ見せで、来た順にホワイトボードへ芸名を書くように指示されたんです。でも私はそもそも芸人になれると思ってなかったので、何も考えていなかった。 「クレオパトラじゃダメかしら……」なんてぶつぶつ言いながらボードの前にたたずんでいたら、後ろから声が飛んできました。 「おばあちゃんだから、おばあちゃんでいいじゃん!」 すると周りの子たちも「いい名前じゃん。おばあちゃん!」と賛成してくれた。 うん、見たまんまだし、悪くないな。こうして、あっさり決定しました。 今ではしっくりと馴染み、これ以外に良い芸名はないと思える、愛着のある名前です。 話を戻しますと、ほかの生徒たちに迷惑をかけないためとはいえ、私への特別扱いを良く思わない子もいるだろうなと、申し訳ない気持ちもありました。 もちろん、直接悪意を向けられたことはなく、優しく接してもらった記憶しかありません。 それでも、若い子たちはお笑いで一旗揚げようとこれからの長い人生をかけてNSCに来ているわけですから、「年寄りってだけで目立つなんて冗談じゃない」という考えがあってもおかしくありません。 ですから、在学中はあまりでしゃばらないように気をつけました。 たとえば、授業で講師にネタを見てもらうのは、原則1回。時間に余裕があって2回、3回と発表できる場合もありましたが、その時は若い人に譲る。そう決めていました。 老い先短い私には伸びしろはないですもの。若い人にどんどん伸びてもらいたい。その一心でしたね。 ※本稿は、『ひまができ 今日も楽しい 生きがいを - 77歳 後期高齢者 芸歴5年 芸名・おばあちゃん』(ヨシモトブックス)の一部を再編集したものです。
おばあちゃん