歌舞伎役者、市川染五郎 挑戦の家系の血を継ぐサラブレッドが生み出すアイディア
「苦しかったのはちょうど襲名したときですね。 声変わりの時期で、ほんとに声が出なくて……というより、音域が狭くなっちゃったんですよね。 歌舞伎の古典作品だと、こう、裏声にしたりとか、いろんな音域を出さなくてはいけないのですが、それが滑らかにいかない、みたいな。そのときが1番辛かった。 でも身体の成長過程の変化だから、どうしようもないじゃないですか。技術を磨いたところでどうなるものでもないので、すごく辛かった。そういう時期が1~2年続いて、最近ですね、やっと落ち着いてきたのは」 反対に、うれしかったことは? 「今年の2月に博多座で江戸川乱歩の「人間豹」という作品をやったことですかね。もともと祖父と父が歌舞伎にした作品ですけど、 祖父がやっていた明智小五郎を父が。で、父がやっていたその人間豹という半人半獣の怪物などを今回僕がやらせてもらった。 初演の時が3歳くらいだったんですけど、今でも鮮明に覚えているほど印象深い作品で、いつかやりたいと思っていた長年の夢が叶った。本当に嬉しかったですね」 ■父・松本幸四郎とはタイプが違う? そんな染五郎さんにとって父・幸四郎は、仕事が好きな「お芝居人間」。一方本人は、タイプが違うと自己分析している。 「「父は、とにかくいつも進んでいないと、不安になってしまう人。別に急がなくていいのにっていう時でも急いでるんですよ。とにかく追っかける。追っかけて追っかけて追っかけて……やっぱり好きだからできるのでしょうし、 好きだからずっとやっていたいという、それだけなのかもしれません。 もちろん自分も好きでやってはいるんですけど、どちらかというと僕は自分の器の中に溜まったものを定期的に抜いてからじゃないと、新たなものを入れられないタイプ。もういくらでも圧縮して(笑)詰め込める父とは、違うんですよね(笑)」 自身の器は、大好きなゲームなどで息抜きして、空にする。 「主に戦う系が好き。ゲームの中にバーチャルな世界を作ることもできる時代なので、いつかその世界に自分が作った街で、歌舞伎を上映できたらいいなと考えています」 そう話すご本人もなかなかの「お芝居人間」。目が離せないのは、美しさだけではなさそうだ。 歌舞伎NEXT「朧の森に棲む鬼」は、11月30日~12月26日、東京・新橋演舞場で上演される。(ライター・福光恵) ※AERA 2024年12月2日号
福光恵