「銃規制は死んだ...」3Dプリンター銃「FGC9」開発者の正体が判明、謎の死と痛ましい「素顔」に迫る
非モテをこじらせた孤独な素顔
だが4chanなど匿名掲示板への書き込みを見ると、人権意識はどこへやら、排外主義や人種差別、反ユダヤ主義的な物言いが目につく。 さらに目立つのは女性蔑視的な発言だ。男性の抱える問題の大半は女性のせいだと言わんばかり。インセルにありがちな女性への憎悪がにじみ出ている。自分は見た目や人種、身長でハンディがあるし、自閉症だから女性にモテないと、彼は嘆く。このままでは一生独りぼっちだ、と。 それはドゥイグがFGC9の開発者として表で見せる顔とは全く違う一面だった。後に分かったことだが、彼はインセルの世界でさまざまなハンドルネームを使い分けていた。 インセルをテーマにしたポッドキャストの番組では、自閉症とメンタルヘルスの問題があるから女性と恋愛関係になれないと語っていた。 一方で民族的ルーツも気にしていたらしく、「白人と見られる外見」なら少しはモテただろうに、と投稿してもいた。 インセルがネット上のコミュニティーでぶちまける女性蔑視や女性憎悪は、現実の世界で暴力として噴き出す危険性がある。 この手の事件をメディアが初めて大々的に報じたのは14年5月。カリフォルニア大学サンタバーバラ校近くで、女性への報復を誓うエリオット・ロジャーが通行人などをナイフで刺すか銃撃し、6人を殺害した事件だ。 その4年後、カナダのトロントで25歳のアレック・ミナシアンがフェイスブックでロジャーをたたえ、「インセルの反逆は既に始まっている!」と宣言。車を暴走させて通行人を次々にはね、11人を死亡させた。
さらに活気づく開発の動き
ドゥイグはネット上でインセルの暴力を非難することもあったが、死亡する数日前には女性と再び親密な関係になれないなら、「文字どおり殺すか自殺する」と書いていた。 インセルの立場で犯行声明じみた書き込みをしたのはこれが初めてだ。偶然にもその翌日に彼は逮捕された。報道によれば、当局がマークしていた物品をネットで購入したためだ。 ドゥイグのプロフィールや行動の分析は、テロの最新動向をつかむ上で大いに役立つ。例えば、ネット上でインセルのコミュニティーと極右や排外主義、人種差別主義のコミュニティーが重なり合っていることが分かる。 一方で、ドゥイグがFGC9を設計したそもそもの動機が何だったにせよ、20年にネット上で製造ファイルを公開したため、さまざまな人間がさまざまな目的で製造するようになったことも否めない。 3Dプリンター銃の製造技術は今後どんどん進歩し、より効率的で、簡単に作れる銃がFGC9に取って代わるだろう。問題は3Dプリンターで製造された殺傷力のある武器がさらに広く普及するかどうかだ。答えはおそらくイエスだろう。 新たな手口の無差別テロが1件起きれば、模倣した犯行が次々起きる。 いい例が16年に南仏ニースで花火の見物客の群れにトラックが突っ込んだ過激派組織「イスラム国」(IS)のテロだ。その後欧州各地で同様のテロが続いた。3Dプリンター銃による大規模な無差別テロが起きれば、同じことが繰り返されかねない。 いま起きている3Dプリンター銃絡みの事件は序の口にすぎない。ドゥイグの死後もプラモデルやDIYマニア、銃マニアが群がり、新しいデザインが次々に生まれ、開発の動きはさらに活気づいている。 3Dプリンター銃を製造して売り、荒稼ぎしようとする個人や犯罪組織は後を絶たないが、開発熱の根幹にあるのは金銭欲ではなく、イデオロギーだ。 FGC9の製造ファイルはダークウェブの人知れぬフォーラムに隠匿されるどころか、今や誰でも比較的簡単に入手できる。 その事実こそ、3Dプリンター銃の核心を成すメッセージの正しさの証明だと主張する向きもあるだろう。そのメッセージとは「いったん発信されたら拡散は止められない」というものだ。 銃規制賛成派も反対派も今や認めざるを得ない。この新手の武器の製造技術は既にしっかりと確立され、根絶はほぼ不可能だ、と。 Rajan Basra, Senior Research Fellow, International Centre for the Study of Radicalisation, King's College London This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
ラジャン・バスラ(ロンドン大学キングズ・カレッジ過激化研究国際センター)