競合菓子メーカーの役員が悔しがるほど…キットカット「外装だけプラから紙へ」の秀逸な発表方法
信頼や共感を集める企業は何が違うか。リブランディングコンサルタントの深井賢一さんは「ビジネス社会においては、自社の取り組みを世の中にきちんと伝えないことは大きなリスクになる。2019年8月1日、定番ロングセラー商品の『キットカット』の販売元であるネスレ日本の当時の社長兼CEOは『外装をプラスチックから紙に変え、プラスチックを年380トン削減する。100%の解決にはならないが、現在とり得るベストの方法である』と発表した。このように完全ではないにもかかわらず、ありのまま誠実に、いち早く伝えることで多くの共感や賛同を呼び、価格以上の価値を生み出すことができた」という――。 【この記事の画像を見る】 ※本稿は、深井賢一『売れる「値上げ」』(青春出版社)の一部を再編集したものです。 ■大々的にアピールするのが苦手な日本人 いまはどの企業でも事業の一環として脱炭素社会やSDGsに向けた取り組みやプロジェクト、イベントを行っています。そのような企業がイメージアップのためマスコミ媒体や自社ホームページ、SNSなどでアピールし、それを見聞きする機会も増えました。 ところが企業トップからは、しばしば次のような声を聞きます。 「こんな小さな取り組みを、ことさらアピールするなんて恥ずかしい」 「『わが社ではこんないいコトをやっています』と言ったら、かっこつけでやっていると思われ、かえって印象を悪くするんじゃないですか」 「そういうことを自社ホームページやSNSで公表するのは、品がないように思えます」 もとより日本人自体が全般的に謙虚で、出しゃばったり自分のよいところを大々的にアピールしたりするのが苦手なことも、その傾向を後押ししているようです。
■伝えないことがリスクになる時代 しかし、ビジネス社会においては、自社の取り組みを世の中にきちんと伝えないことは大きなリスクになります。完璧主義を貫き、完璧な状態になるまで黙っていることはリスクになるのです。 一方で、いまできていることを、ありのままに誠実に、いち早く伝える姿勢は、多くの共感や賛同を呼び、価格以上の価値を生み出します。 本稿では同様に、「小さくて」「不完全」だけれど、それを誠実に、透明性をもって伝えたからこそ付加価値になり得た例を紹介していきます。 ■プラスチックから紙へ「包装紙のベスト」を率直に話す 「外装の紙化」で広がる応援の輪 ---------- ネスレ日本『キットカット』 ---------- 赤い文字のロゴでおなじみの『キットカット』。ウエハースをチョコレートでコーティングしたこのお菓子は、まさに定番ロングセラー商品です。 『キットカット』が世に出たのは、1935年のイギリスです。日本に初めてお目見えしたのは、1973年。以来、半世紀にわたり、幅広い層から根強い人気を得ています。 この『キットカット』の販売元であるネスレ日本の社長兼CEO(当時)が、2019年8月1日、ある記者会見を開きました。「2019年9月から『キットカット』の外装をプラスチックから紙に変え、プラスチックを年380トン削減する」と発表したのです。 外装を変えるのは大袋タイプ(個包装商品が12~14枚入ったタイプのもの)のうちの5種類で、『キットカット』国内出荷量の大半となります。これにより年間380トンのプラスチック削減が実現されるのです。 当時の社長は記者会見で、「紙は燃やすと二酸化炭素が発生するが、一番の問題はプラスチックが海に流れ出て、それを魚が食べ、人間にも影響が出る可能性があること。 プラスチックがごみとして外に出ることを防ぐのが先決。外装を紙にすることで、100%の解決にはならないが、現在とり得るベストの方法である」と語っていました。