近年の「投高打低」に一石? 野球のバット選びに「科学の力」、打球速度10マイルアップも
米大リーガー御用達の最先端技術が日本に上陸した。米国の大手野球用品メーカーの日本法人「マルチ&ヴィクタススポーツジャパン合同会社」が6月下旬、バットスイング計測システム「ベースボール・パフォーマンス・ラボ(BPL)」を備えた店舗を都内にオープン。感覚に頼らず、科学的なデータに基づいて最適なバットを提案する環境を整えた。バットの変更で打球速度が10マイル(約16キロ)以上アップした例もあり、近年のプロ野球の「投高打低」傾向に一石を投じる可能性を秘めている。 【写真】スイング分析のため、体に機器を取りつけて打撃を行う糸井嘉男さん 米大リーガーのマルチとヴィクタスのバット使用率は1位と2位で、半数以上を占める。エンゼルスのマイク・トラウト、ヤンキースのアーロン・ジャッジら米球界を代表する選手も愛用。日本のプロ野球では、日本ハムの万波中正、ソフトバンクの周東佑京らがアドバイザリー契約を結んでいる。 BPLでは、人間などの動きをデジタル化する「モーションキャプチャー」や床反力を計測する「フォースプレート」で、打球速度や角度、距離、力の伝わり方などのデータが得られる。米国では90人以上の現役大リーガーが活用。最優秀選手(MVP)に輝いた経験のあるドジャースのムーキー・ベッツは毎年、BPLでバットスイングをチェックしているという。創設者のリアム・マックロウ氏は「自分に合わないバットを選ぶとパフォーマンスは低下する。30分で打球速度を上げられる」と説明する。 新店舗オープンに先駆けて、日本ハムや阪神などで活躍した糸井嘉男さんがBPLを体験した。体に機器を取りつけて最初に3球程度の打撃を行い、データを収集。計測結果に基づき、最適と判断されたバットを使用して再び球を打つと、打球速度が5マイル(約8キロ)もアップした。 糸井さんは「(5マイル上げるのに)トレーニングをして10年かかった。現役の時に来たかった。選手にはぜひ、活用してほしい」と最先端の技術に感嘆の声を上げた。 バット製作は、これまで選手の感覚に頼る部分が大きかった。BPLではバットの違いを長さ、重さ、バランスの3点に分類して数値化することで、選手に適したバットを探り当てることを可能とした。マックロウ氏は「20%の選手は、自分に合わないバットを使っている。選手の感覚は一人ひとり違う。選手に合ったバットを使うことが大切」と強調した。