06年、ドジャース時代の斎藤隆。36歳でのメジャー挑戦における壮絶なサバイバルとは photograph by Koji Asakura

　パイオニア野茂英雄、現在は大谷翔平に山本由伸と30年間にわたって日本人選手が活躍し続けたロサンゼルス・ドジャース。しかしその名門球団で全員が“好待遇”のもとでプレーし続けたわけではなかった。36歳にしてのマイナー契約からクローザーへと這い上がった斎藤隆氏が知る、リアルな格差とサバイバルとは。(敬称略。全3回の第1回/第2回、第3回も配信中) 【写真】「ベイ時代はガリガリだったけど…」斎藤隆36歳の肉体変化がエグい。ベンチでガク然とした日も…ベッツやグラスノーらに愛されまくり大谷さんと由伸からトルネード野茂まで《ドジャースと日本人の幸福な歴史》を全部見る 　周囲から嘲笑交じりの言葉や心無い声が聞こえてくることもあった。自分自身もキャリアのピークを過ぎた感覚があった。年齢や成績を見れば受け入れざるを得ない現実だった。

02年オフ、3年7億円超の契約を結んだが

　2005年オフ、横浜ベイスターズに所属していた斎藤隆は海を渡る決断をした。 　当時、36歳。このシーズンは主に先発として21試合に登板して3勝4敗と結果を残せなかった。2002年オフにFAとなった斎藤は3年総額7億3000万円(推定)の契約を結んで残留し、抑えから先発への再転向を告げられた。大型契約の3年間で積み上げた勝利は、わずか11勝。かつて先発として3年連続で2ケタ勝利をマークした輝きを失っていた。 　斎藤が苦い記憶をよみがえらせる。 「年俸に見合う活躍ができなくて苦しかったです。不良債権とも言われました。こうやって野球が終わるんだなと。残された時間はわずかかもしれないと思っていました」 　選手としての終着点を意識し、ある場面を思い出した。 　先発の柱として13勝を挙げた1998年、38年ぶりのリーグ優勝を果たした時に歌手の松山千春氏がチームを訪れて話をした時の言葉だった。松山氏はこう問いかけたという。 「お前らが活躍する裏で、野球を辞めたやつがたくさんいるんだぞ。考えたことあるか？」 　その頃は心にそれほど響かなかった言葉が、年齢を重ねた斎藤に染み込んできた。小学生で野球を始めてから多くの仲間と時間を共有し、家族や指導者のサポートを受けてきた。思い出が色を帯びていく。 「喜びも悔しさも味わいました。上のカテゴリーを目指して野球を志し、夢がかなわなかった人はたくさんいます。幸運にもプロになれた自分の野球人生を考えた時、最高峰と言われるメジャーリーグを目指して終わろうと思いました」