激闘王の八重樫が衝撃の1回TKO負けも「限界は感じていない」と引退否定
34歳。「プロとして減量は仕事」と、八重樫は言い訳はしないが、実はライトフライのウエイトを作ることは難しくなっている。筋肉隆々の筋量の多い肉体を絞りこむのは、専門家に言わせると奇跡に近い作業。今回も、1週間前に体重は落ちなくなり、頭がフラフラして足に力が入らなくなった。貧血の一種で、サプリメントで、鉄分などを補給。結局、計量2日前にはリミットを切っていたが、ここまでの激闘を重ねたダメージの蓄積と、過酷な減量負担は、八重樫の何かを狂わせていたのかもしれない。 大橋会長が「公開スパーを見たときに、これは強い相手だと思った」という元統一王者のエストラーダとフルラウンド戦ったほどの最強の暫定王者を迎え撃つには、仕上がりは物足りなかったのだろう。 さて気になるのは進退問題である。 「限界だとは感じない。そう思ったらそれまで。僕は、ずっと勝てている人間じゃないし、いろいろな山を越えてきて、また大きな山ができただけ。もうダメだとは思わない。どうすればいいかは人が決めることではないけれど、ニーズがあればやるでしょう。奮い立たせるものが残っていれば。 新しくやりたいと思えるものがあってもやるだろうし、やりたいものがなければ、もういいかな、とスパッと辞めるかもしれない。日本人はやる、やめるの線引きを求めるけど、海外の選手は、やると言ったり、やめると言ったり、そういうの当たり前ですから。そのときに感じる気持ち次第」と、八重樫らしい表現で引退は否定した。 「ニーズ」の部分で言えば、前日、名古屋でWBO世界ライトフライ級王座を防衛した田中恒成が控え室を訪れて対戦を熱望。大橋会長の囲み取材では、WBA世界フライ級王者、井岡一翔の放映をしているTBSのディレクターが「井岡との再戦はどうか?」と質問するなど、“激闘王”“戦うお父ちゃん”として世間で認知度の高い八重樫の商品価値は落ちていない。大橋会長は「4階級制覇というのもあるからね」とスーパーフライに2階級上げて日本人初の4階級王者を狙う復帰プランも可能性のひとつとしてあることを口にしている。 父の衝撃的な1ラウンドKO負けを観客席で見た小学生の長男は泣いていたという。 「現実の世界は難しい。努力したからと言って、報われないこと、うまくいかないことがある。そういうことを感じられる年だからね」 だが、努力が報われる瞬間は必ずある。 八重樫がそういう生き様を見せる気ならば、最後の再起という選択肢もありなのかもしれない。