野木亜紀子が『海に眠るダイヤモンド』に懸けた思い 「面白いと思うドラマを作り続ける」
簡単には変わらない世の中だから、自分が面白いと思うドラマを作り続けるだけ
――端島の歴史と並行して描かれる現代パートでは、玲央がホストクラブと風俗店の不法な関係性を暴く展開もありました。 野木:あそこで行なわれていることって、気持ちをお金で買っているんですよね。金銭で心を繋ぎ止められるなら、と無理をしてしまう人が出てくる。それがわかった上でシステムが出来上がっていた。本来なら、不相応な金額を使えないようにするべきなのに。キャバクラにはツケなんてない。でも、客が若い女の子だから、敢えてそうしている。実は明治時代の炭鉱にあった「納屋制度」も似たような仕組みなんですよ。炭鉱夫が来た初日に酒や女で散財させて借金を作らせて、その後は納屋頭がピンハネしていつまでも安く働かせるっていう。いつの時代も手を変え品を変え、搾取の仕組みがある。今も、ホストクラブだけではなくて、もっといろんなところに、こういう搾取する仕組みがあるかもしれない。ドラマを通じてちょっとでも気づいてもらえたらと。今話しながら思ったんですけど、私、最初に書いた『さよならロビンソンクルーソー』(2010年)も貢ぐ人たちの話だったし、同じこと言ってるな(笑)。もうね、なかなか変わりはしないんですよ世の中って。どんなにドラマを作っても! ――(笑)。それこそ1950年代から人々の悩みは変わっていないですもんね。そんななかで、野木さんがエンタメを通じて社会に一石を投じてくれるのではという期待も高まっています。 野木:やっぱり私の観たいドラマを作り続けていくしかできないなって思うんです。私自身はいろんなジャンルの作品を作りたいので、そうして作っていくものの中には「野木脚本だから期待したけど、これは私には合わないな」っていうこともあると思うんです。例えば、刑事ドラマは好きだけど、歴史モノはちょっとな……っていう人もいると思うし。もちろん、できるだけ多くの人に観てもらえるように努力はするけれども、全員がいいと思うものなんて、この世に存在しないから。とにかく自分が面白いと思うドラマをひたすら作っていくしかない。それが、今のあなたのお眼鏡にかなったら嬉しいですね、っていうくらいの気持ちですね。映画とかドラマって総合芸術だから、 私だけの力じゃなく、合わせ技で2倍、3倍になっていったりするもの。なので、私一人でそんなに気負う必要もないというか。ただ連ドラも映画も、それなりの時間をかけてキャストとスタッフが取り組むものなので、少なくともみんなが「この話つまらないな」って思いながら何カ月も仕事をすることのないように。少しでも良い設計図を提供できたらなって思いながら、日々精進しています。 ――そのお話を受けて、また新井プロデューサー、塚原監督とともにドラマを作るとしたら、どんな作品がいいですか? 野木:次は、こんなに大変じゃないものがいいですね(笑)。本当にこのドラマは大変なことの連続だったので。現場でも「過去最高に無謀」なんて声も続出していましたから。でも、スタッフ・キャストの皆さんの力と頑張りのおかげで、これだけの形になりました。 ――その産みの苦しみがあったからこそ、これほど見応えのあるドラマにもなったと思うと、本当に感謝と「お疲れ様でした」という気持ちでいっぱいです。最後に、最終回に向けて視聴者のみなさんにメッセージをお願いします。 野木:「端島の終わり」と聞くと、どうしても悲劇的な印象ばかりを持たれるかもしれませんが、当時うまく閉じられなかった炭鉱が数多くあったなかで、実は端島は島民たちの努力もあって、退職金も出て、珍しく平和的に幕を下ろしているんです。もちろん、故郷を失う悲しみはあるし、7話のような事故やドラマでは描かれなかった苦悩や分断もありましたが、あの島の人たちは大いに働き、大いに生き、やり遂げた。そのあたりも含めて、最終回は鉄平たちの物語を見届けていただけたらと思います。あとは、できればリアルタイムで観てほしいですね。裏番組もありますが(笑)、スマホを触る暇もないくらい怒涛の展開を見せるので、一瞬も見逃さずに見ていただきたいです。ぜひとも、よろしくお願いします!
佐藤結衣