野木亜紀子が『海に眠るダイヤモンド』に懸けた思い 「面白いと思うドラマを作り続ける」
行間を読ませるストイックで抑制的な脚本を日曜劇場で
――坑内火災を描いた第7話は観終えた後は放心状態になりました。1回幻覚を見たけど、やっぱりリナたちのもとに戻らなきゃってなってからの膝から崩れ落ちるって……「野木さん、なんて話を書くんですか!」と悶えました! 野木:実はお兄ちゃんが死んじゃうことは企画段階から決まっていて。斎藤工さんにも「第8話で亡くなる役なので、ほぼ第7話までなんですけど」ってオファーの段階で新井プロデューサーがお話していたくらいなので。あのシーンは斎藤さんもすごくよかったし、塚原あゆ子監督も上手かったですよね。脚本を書きながら「塚原さんこういうの絶対得意だよな」って思っていました。膝をついてから倒れたのと、最後の丸まって倒れているところは、塚原さんが斉藤さんにリクエストしたそうです。 ――本当に。命の灯火が消えるようで胸がつまりました。今回のドラマは全体的に行間を読むというか。セリフになっていないものが多い印象ですが、それはあえてですか? 野木:わかっていただけて嬉しいです。今回はちょっとハイコンテクストを狙ったというか。エンタメを守りながらも、なるべくセリフにしなくていいところはしないように。これまでよりストイックに、抑制的な脚本を目指しました。その結果、これまで以上に“ながら見”ができないドラマになり、わかりやすい作りじゃなくなってしまったとは思うんですけど。 ――その挑戦を、日曜劇場という枠でされたのは? 野木:民放の中では最もビックバジェットの枠なので、せっかく作るのであれば、大人の鑑賞に耐えうる、海外でも通用するクオリティにしたいと思ったことがまずあります。より映画的な方向です。次に、最近の日曜劇場は『半沢直樹』(TBS系)のヒットからスカッと爽快なドラマのイメージが強くなりましたけど、もともとはヒューマン系が主流だったんですよね。なので、今回はちょっとそっちに立ち返ってみようと。人々がどう暮らし、どんな青春があって、彼らの人生がどうなっていったのかを愚直に書いていく。そこに端島という特殊な環境と、現代がクロスすることによって、ちょっとした謎が生まれたという形ですね。 ――それはどの段階からのお話ですか? 野木:最初の企画段階ですね。「端島の話にしよう」となったときに、塚原監督から「端島の過去話だけだとちょっと興味が持てない」とバッサリ言われて。「お、おう、そっか」って(笑)。たしかに今はそういう人も多いだろうねって。じゃあ、いづみが過去を振り返るように物語を展開させて、いづみが誰なのかっていう謎を作ろうと。 ――その構成ありきでトリプルヒロインに? 野木:そうです。「2人だと、もうどっちかでしかないじゃん」ってなって。ならば3人で、と。しかし鉄平は行方をくらまし、現代のいづみのそばに彼はいない。ある種の悲恋を描こうというところから企画をスタートして。そのときは、いづみの謎が明かされるのは第8話くらいの予定だったんですよ。 ――オンエアでは、たしか第5話の終わりで判明しましたよね? 野木:そう。書いてて「もう無理!」ってなったから(笑)。「これ以上は無理、限界です! 私、もうバラします!」って塚原さんと新井さんにLINEしました。「第5話でバラせば、第6話で朝子といづみの像を結べる! これで行く!」って。書いてみないとわからないことってあるんですよ。 ――まさかの野木さんの限界だったんですか! でも、あのタイミングで判明したことで物語が一気に加速していった感じがしました。 野木:観やすくなりましたよね? 「もうだいぶ頑張ったよ、私」って思って(笑)。顔合わせの時、前日に第5話の台本を読まれた宮本信子さんに「いいの? いづみの謎、もっと引っ張らなくて大丈夫なの?」って聞かれて。もともと「第8話くらいまで誰だかわからない」という形でオファーしてたんですよね。だから心配されたんですが、「大丈夫です! まだ鉄平の謎もあるし他のことで引っ張れるんで。私そういうの得意です!」って、とりあえず自信満々で答えておくっていう(笑)。 ――(笑)。でも実際、鉄平の謎でこれだけ盛り上がっていますからね。台本がほとんど出来上がった状態で撮影がスタートされたということで、野木さんはオンエアをどのように映像をご覧になっていますか? 野木:大変だよね、って気持ちが一番大きいですね。撮影現場の苦労も多いし物量も多い。これでもだいぶ「この場所がないから話を変えてほしい」とか「こっちにまとめられないか」っていう、話し合いのもとに相当書き直した結果なんですけど。例えば、第2話の台風のシーンで、当初は鉄平と百合子がいた建物が崩れることになっていました。それは実話なんですよ。護岸が崩れて建物が半壊したんです。 ――え!? では、現実のほうがドラマよりもさらに過酷だったと? 野木:そうなんです。でも、1回そのエピソードを書いてみたけれど、「1回セットを作って壊して……ってやるの?そりゃ無理だよね、わかるよ……」って書き直しました。その代わりといってはなんですが、食堂が浸水するシーンはやってくれましたね。あれもスタジオのセットをプール状に作るというかなり無茶なことをしてくれています。本当に苦労をかけています。