中にはパワハラやセクハラ被害も…女子の「スポーツ離れ」という深刻な課題
この稿でも何度か出てきたが、日本では「部活の地域移行」が進んでいる。これに伴い部活指導の在り方が大きく変わろうとしている。このタイミングで女子スポーツの在り方を見直すプレー・アカデミーの取り組みは、時宜にかなっていると言える。 この部活動指導者養成プログラムを受講し、実際に中学に派遣された桃山学院教育大健康・スポーツ教育課程4年次の世古汐音さんはこう語る。 「私の経験で言うと顧問の先生が男性であることが多かったので、体調面などを相談しづらかったことがありました。また、私自身も嫌な思いをしたこともあったので、今回、現場で子どもたちに接するにあたっては、子どもたちの権利をしっかり守って安心・安全な場でスポーツを楽しんでもらおうと思いました。
私自身は今年まで現役のバレーボールの選手でしたが、スポーツには選手としての考え、視点と、指導者の視点の2つがあることに気づきました。その両方の見方で指導するのが大事だと思いました」 世古さんは「女の子のためにスポーツを変えるウィーク – COACH THE DREAM – 」のパネルディスカッションでも「小学生からバレーボールを始めたが指導者とうまくいかず、好きなバレーを辞めたいとも思ったことがある」と自らの経験を紹介した。
大学の理念、考え方を、地元の中学校現場に伝える役割をしている、同大学の実習助手の土井智弘氏は「女子の場合、ロールモデルが少ないですね。男子よりも専門性がない顧問の先生が多いんです。選手がもっと上手くなりたいって思っても技術的な指導が難しいのが現状です」と語る。 ■「エリート主義」「勝利至上主義」が先行 筆者は地域スポーツ施設の開設や、スポーツチームの立ち上げの取材もするが、そこで多く聞かれるのは「何年後にメダリストを何人出す予定か?」とか「何年で全国大会に出場できるか?」みたいな話だ。
本来、スポーツは人が健康で文化的な生活を送るために必要な「基本的人権」の一部だと思うのだが、日本では「エリート主義」「勝利至上主義」が先行して、こうした考えはなかなか浸透しない。とりわけ女子は後回しにされ、等閑視されがちなのだ。 桃山学院教育大学の中村浩也教授は語る。 「女の子のスポーツ権を主眼とするこの取り組みはマイナーで、今のところあまり注目されません。今の日本では、スポーツは勝つためにどれだけ汗を流したか、みたいな部分に日が当たりがちなんです。また男子のほうが女子よりも注目される。
けれども、スポーツや、教育の未来を考えるならば、裾野を広げて安心・安全に参加できる環境を作っていかなきゃいけない。性別や人種、国籍、障がいの有無などの障壁をこえて、すべての人々が楽しめるようなスポーツ環境を作らなければ、と思っています」
広尾 晃 :ライター