【法律ホラー漫画】日本の闇過ぎる冤罪「袴田事件」に迫る。殴る・蹴る・脅迫の自白強要がヤバすぎた【作者に聞いた】
知らないとヤバイ法律、知ったら知ったで悪用する人が出てきてしまう…それが法律です。弁護士をしながら、法律にまつわる4コマ漫画を日々、X(旧Twitter)で発信をしている【漫画】弁護士のたぬじろうさん(@B_Tanujiro)。意外と身近に存在する、法律にまつわる「ヤバイ」を漫画にすることで、法律を知ることの重要性を読者に投げかけています。 【漫画】「知るほどヤバイ知らないともっとヤバい法律あるある」本編を読む 今回は、1966年6月30日に静岡県清水市で起きた味噌製造会社の専務一家4名に対する「強盗殺人・現住建造物放火」に関する事件、通称:袴田事件の闇に迫ります。ある判事は無罪を確信しながら死刑判決文を書いたそうです。 なぜ冤罪だと言われているのか?取り調べにどんな闇が潜んでいるのか。そんな生々しい実話を漫画で解説してもらいました。 ●冤罪とは? 「罪がないのに疑われ、または罰せられること」をいいます(『日本国語大辞典(2)〔第2版〕』小学館、2001年)。「濡れ衣」などといわれることもあります。なお、法律用語として明確な定義が定められているわけではありません。そのため、 ・犯罪を行なっていないのに、有罪判決が確定した場合 ・犯罪を行なっていないのに、起訴された場合(有罪判決・無罪判決を問わず) ・犯罪を行なっていないのに、逮捕された場合(起訴・不起訴を問わず) ・犯罪を行なっていないのに、被疑者として取調べを受けた場合(逮捕の有無を問わず) 等、さまざまな文脈で使われることがあります(下にいくほど、冤罪の定義が広い)。 袴田事件は、有罪判決が確定している事件です(2024年9月26日再審における判決が予定されています)。そのため、袴田さんが犯罪を行なっていなければ、いずれの定義においても「冤罪」にあたります。 ●供述調書とは? 刑事事件の取調べにおいて、被疑者や参考人から聞き取った内容を記録した書面をいいます。文章を作成するのは被疑者等本人ではなく、警察官や検察官(なお、検察官が言ったとおりに、検察事務官がパソコンを打って作成する)です。警察官や検察官は、完成した文章を、被疑者等に読み聞かせます。その上で、誤りがなければ、被疑者等が署名押印(指印)をして、完成します。 ――「水が与えられない」「トイレに行けない」「取調室の便器で用を足すように強要される」などの取り調べの違法性について教えてください。 たぬじろうさん(以下、たぬじろう):このような取調べがなされると、やっていない人であっても「自分がやった」と認めてしまう危険がありますよね(少なくとも僕は耐えられません…)。 ですから、憲法38条2項は「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。」と規定しています。また、刑事訴訟法319条1項においても、同趣旨の内容が定められています。 本件のような取調べは、強制、拷問または脅迫に該当します。そのため、これにより得られた自白は、証拠として使えないはずなのです。 実際、袴田事件においても、第一審の静岡地方裁判所では、作成された45通の自白調書(罪を認める内容の供述調書)のうち、44通が無効と判断されました。しかし、1通の検察官作成の供述調書についてだけは、有効と判断されてしまったのです…。 ――弁護士による面会日数と、時間はどのくらい確保されるのが一般的なのでしょうか? たぬじろう:事実を争っているとか、重大事件で取調べが過酷になることが予想されるような場合であれば、弁護人としては、連日接見(面会)することが望ましいと言われています。しかも本件では、自白が強要されているような事案ですから、それこそ毎日、接見(面会)した方がいいと思います。 私は、争いのない認め事件であっても、捜査期間中は、4日に1回は必ず接見(面会)に行くようにしています。時間についても、初回であれば、私は内容を簡単に聞き取るだけでも1時間はかけます。本件のような重大事件であれば、1時間ではとても足りないでしょう。 今でこそ、このように説明することができますが、昔は状況が大きく異なりました。「一般的指定書」というものが発せられていると、弁護人は、検察官の発する「具体的指定書」(いわゆる「面会切符」)というものがなければ接見(面会)ができなかったのです。しかも認められる接見時間は15分程度のみ。この「一般指定書」が廃止されたのは、1988年4月1日のことでした。 昔は、弁護人であっても、自由に接見(面会)できないことが多々あったということですね…。 ――衣服の再現実験について詳しく教えてください。こういった実験は、反証材料としての有効性を高めるために、第三者による立ち合いがあったりするものなのでしょうか? たぬじろう:衣服の再現実験は、袴田巖さんを救援する清水・静岡市民の会の会員と、弁護団所属の弁護士により行われました。有効性を高めるため、その経過はデジタルカメラ、ビデオカメラにより記録がなされました。 実験は3通りの方法で行われました。 ①衣類を、味噌に、短時間漬ける実験。→結果:ごく短時間(20分程度)で、本件着衣によく似た状態になることが確認されました。 ②衣類を、市販の味噌に、1年2か月漬ける実験。→結果:衣類は焦茶色に、血液は黒色に変色することが確認されました。 ③衣類を、本件と出来る限り近い味噌に、半年間漬ける実験。→結果:②に近い色に変色し、本件着衣とは全く異なる外観になることが確認されました。 上記により、本件着衣は1年2か月の間、味噌に漬かっていたものではなく、発見される直前に味噌樽(コンクリート製の味噌タンク)に入れられていたことが明らかになりました。 ――「自白」の意味は、実は民事と刑事とでは言葉の使い方が異なると伺っております。詳しく教えてください。 たぬじろう:刑事における「自白」とは、自分の犯罪事実を認めることです。マスコミ等でよく使用されている「罪を自白した」というときの「自白」は、刑事における「自白」のことですね。一般的に使用されている「自白」も、刑事における「自白」のことを指すことが多いと思います。 民事における「自白」とは、相手方が主張している自分に不利な事実を認めることです。例えば「貸したお金を返せ」という裁判で、借主(被告)が、お金を借りたことを認めれば、それは民事における「自白」に当たります。民事における「自白」された事実は、証拠により証明しなくても、裁判の前提事実になります。 【もっと教えて!たぬじろうさん】 本件では、マンガでとりあげられた証拠以外にも、おかしい証拠があります。 例えば袴田さんが犯行時(後)に通ったとされていた裏木戸には鍵がかかっており、人が通れる隙間はありませんでした。しかし、捜査機関は、鍵を外した上で通り抜け実験を行ない、裏木戸が通れたと裁判所に報告していました。つまり、虚偽の実験を行っていたのです。 犯行着衣の血痕についても、後になってDNA型鑑定が実施され、被害者4名のDNA型とも、袴田さんのDNA型とも一致しないことが判明しました。このDNA型鑑定の結果が、再審開始決定の柱にもなっています。つまり、これらの犯行着衣は、何者かが故意にねつ造した証拠ということになります。 凶器とされたくり小刀(工作用ナイフ)についても、本当の凶器であったか疑わしいと言われています。弁護人側が、同種のくり小刀で豚の胸部を刺してみるという実験を行なったところ、同凶器では被害者が負った傷を負わせることは不可能だという結果になったそうです。 袴田事件は、適正な証拠により生まれた冤罪ではありません。 拷問ともいえる違法な取調べと、ねつ造された証拠により、作られた冤罪です。一人の人間の一生が台無しになってしまったのであり、許されることではありません。また、真犯人がこれにより逮捕もされていないという点も忘れてはなりません。 冤罪はフィクションではありません。 自分や、自分の大切な人が、その対象にならない保障なんてどこにもないのです。 それを皆様にも広く知ってほしいと思います。