河原温の名言「…よりも抑止力なんですよね。」【本と名言365】
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。《Today》シリーズ(デイト・ペインティング)などで知られ、コンセプチュアル・アートの第一人者として国内外で評価を受ける河原温。ほとんど表舞台に姿を現さず、謎も多かったが、生前の貴重な言葉からアーティストとしての姿勢を知る。 【フォトギャラリーを見る】 私はいつだって訴求力よりも抑止力なんですよね。 単色の地のキャンバスに白い活字体で日付を描いた河原温の《Today》シリーズ。列記された日付は普遍的で凡庸なモチーフでありながら、見る人それぞれの個人的な記憶を呼び起こし、言葉や文化、宗教を超越して、人々の記憶とつながり、そして、時間の流れについて深く考えさせる。 河原は《Today》シリーズの制作に取り掛かりはじめた1966年から約50年もの間、表舞台から姿を消し、匿名性を徹底した。個展会場に現れず、インタビューは拒否。自身の作品について語ることをしなかったため、河原の作品は評論家や美術家、友人たちによって解釈が行われた。国内外の美術評論家による河原温論評が集まった『河原温:全体と部分 1964-1995』には、生前の河原温が放った貴重な言葉がいくつか収録されている。その中の一つ、松岡正剛が記したエピソードには河原が残した印象的な言葉がある。 「私はいつだって訴求力よりも抑止力なんですよね」 一見シンプルに見える《Today》シリーズにはいくつかの決まりごとが課されていた。0時ちょうどから制作をはじめ、“今日”のうちに完成させる。できなかったら破棄する。日付の描き方は当時制作している国の表示形式に従い、その国の公用語を使って描く。アルファベットを使わない国(日本を含む)では世界共通語のエスペラント語を使う。使うのはアクリル絵の具で、日によって背景の色を微妙に変える、などなど。ただし、松岡はこう続ける。「制御とは単にストイックであることをいうのではない。制御とはそこにシステムを発生させることでもある。システムを発生させ、そこにホメオスタシスを発動させることである。日付はそうしたシステムとして選ばれた」。 河原は抽象度の高い表現を用いながら、日付というシステムを使って、芸術活動を続けた。そして、日常と存在の記録を通じて、時間の本質を問い続けた。
かわら・おん
1932年愛知県生まれ。画家。1951年に上京し、翌年デビュー。《浴室》シリーズなどで注目され、1964年からアメリカに拠点を置く。1966年から《Today》シリーズの他、《I Am Still Alive》、《100万年》シリーズなど、時間と存在の概念に挑む作品を発表。2014年逝去。
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