無農薬野菜と魚を同じ農場で生産!? 持続可能な農業として注目される「アクアポニックス」とは?
データセンターの廃熱利用で野菜もキャビアも!
2019年にアクアポニックス植物工場を創業したのが、新潟県長岡市のプラントフォームだ。代表の山本祐二さんはIT系ベンチャーの起業家である。 プラントフォーム創業前に、山本さんはデータセンター事業で起業した。データセンターでは日々、大量の電力を使い、膨大な暖気が排出されるという。これを何か有効利用できないかと考えた。エネルギー問題、食糧問題、いずれも日本における大問題であるふたつを合わせてたどりついたのがアクアポニックスだった。創業当時から明確に、持続可能な農業を可能にする植物工場を目指した。 2020年には安定供給が実証され、現在は県内のイオン10数店舗に毎週3回納品している。 プラントフォームの野菜は「FISH VEGEEIS」というブランドで販売されている。野菜やフルーツの場合、たとえば「京野菜」「加賀野菜」「夕張メロン」など産地のブランド化は見られるが、メーカー一社のブランド品はなかなか見当たらない。アクアポニックスという植物工場が生産する野菜のブランド化は農業界でも目を引くだろう。 「現在、エディブルフラワーの開発中です。今後、メロンやイチゴ、トマトなどの野菜や果物も生産していく予定です」(前出の山本さん)。アクアポニックス産の野菜は広がっている。 さらに、プラントフォームではすでに養殖魚のほうも製品化が進む。チョウザメの卵、キャビアだ。 「チョウザメの養殖は通常、水の掛け流しで行なわれていますが、当社では水は循環式です。魚からの排泄物が川に排出されないので、川の汚染することなく養殖できます」 と、こちらも環境負荷の低さが特長だ。淡水魚の水の循環式の養殖は日本初だそうだ。それにしてもアクアポニックスで国産のキャビアが生産されるとは! 今後アクアポニックスで何が生産されるのか、楽しみだ。
サンシャイン水族館ではイグアナのエサになる教育的展示物
2023年からアクアポニックスの実験的展示を行ってきたのが東京・池袋のサンシャイン水族館だ。 サンシャインエンタプライズ事業企画部の高宮一浩さんは、「レタスの成長は早く、苗から1週間ほどで収穫できます。根が自由で、館内の環境が安定していることが安定的な成長を助けていると考えられます」と話す。 収穫したレタスは水族館で展示されているイグアナやリクガメのエサになる。無農薬野菜ゆえエサにも適しているようだ。イグアナもリクガメもむしゃむしゃ食べているとのこと。 アクアポニックスの野菜と魚の循環にあたって、この一年、さまざまな野菜を試みてきた。魚が病気になったり、野菜に虫がついたり。無農薬、無化学肥料ならではのむずかしさもあった。魚のフンと野菜のバランス、バックヤードにおける魚の飼育方法など、現在もさまざまな検証を続けている。 展示は水族館の2階に設置されている。興味深そうに観察する親子の姿も見られ、「子どものほうがアクアポニックスの仕組みを早く理解して、親に説明していたりします」(前出の高宮さん)と微笑ましい。 魚と植物の成長がつながっていること。しかし、ダイレクトにつながっているのではなく、微生物が媒介していること。数十年前までは田畑に動物や人間のフンを貴重な肥料として利用してきた。そうした光景を実際には見られなくなった現代の子どもたちに、アクアポニックスの展示は教育的価値も大きい。 サンシャイン水族館と協力して、アクアポニックスを観光資源に育てようと模索しているのが東京青梅市のIwakura Experienceだ。かつて青梅街道の宿場町からひとつ峠を越えた岩蔵地区の歴史と文化を人々に知ってもらおうという主旨でさまざまな活動をしているが、その一環で、遊休地を利用してアクアポニックスのビニールハウスを立てた。 一年が経ち、「レタスやミントの品種をいろいろ試してきました。適性のある品種を見きわめ、レタスやミントなどは力強く育つようになってきました」と代表の本橋大輔さんは話す。 もともと農業を目的にした施設ではないので収量は多くない。収穫できたときに地元の飲食店に納品したり、イベントに合わせて出荷したりしているという。 飼育中の魚は昨年から変わった。昨年、メチニス、バンガシウスという南米の淡水魚を飼育していたが、冬場に寒さにやられて全滅。現在は鯉、金魚という馴染みのある魚やホンモロコという、育てば高級魚になる淡水魚を飼育している。 アクアポニックスの活躍の場は広い。持続可能性の点でも、おいしさの点でもイノベーティブな農業の姿が見える。もともと限られた水資源、やせた土壌で生み出された農法である。気候温暖化や災害、何が起こるかわらかない今、食糧難への備えにアクアポニックスはとても有効だと思う。アクアポニックス産の野菜が都市部のスーパーに並ぶ日はまだ先かもしれないが、売り場でお魚のイラストつきのパッケージを見かけたら、ぜひ手に取ってみてほしい。 取材・文/佐藤恵菜
BE-PAL.NET