社会保障拡充に協力的な財界と反発する労働組合
現代の福祉国家、再分配国家が行っていることは、みんなが稼いで得た所得をプライベートに使ってよいお金と、連帯してみんなの助け合いのために使うお金に分けて、後者を今すぐ必要な人に分配し直しているだけのことである。 先ほどの十倉議員と同じ話になるのだが、先週の全世代型社会保障構築会議で話したように、経済成長という現象は、結局は財・サービスへの「物欲」と現金や資産への「金銭欲」の葛藤の中で、一人一人が、物欲が金銭欲に勝ったときに起こる現象である。
社会保障という再分配政策は、人々の将来不安を緩和して金銭欲を抑える。これが、十倉議員がおっしゃっていた話につながっていく。また、今すぐ必要な人に所得が再分配されるので、社会全体の消費性向、つまり物欲を高め、消費を下支えすることになる。 この会議に参加している多くの人たちは、月賦で買いたいものがほとんどないという状況だと思うが、「消費の飽和」が経済の天井となっている今の時代では、世の中に安心と平等をもたらす社会保障というのは、経済政策としても極めて有効な手段になり得る。だから、十倉議員が言われた中長期のグランドデザインを示すこと、そして、社会保障と税の一体改革をもう一度考えていくことは、極めて重要な意味を持っていると思う。
財源調達の在り方について、まず押さえておいていただきたいことは、介護給付費は65歳以上で98%を使っていて、医療給付費は60%、年金給付の老齢年金は83%を占めていることだ。こうした高齢期に要するお金に対して、賃金システムというのは、歴史上うまく機能できなかった。誰もが長い人生で直面する「支出の膨張」と「収入の途絶」というものがあるが、これに賃金システムがなかなか対応できないから、19世紀後半に資本主義が一般化した、ドイツ帝国のビスマルク以降、賃金比例・労使折半という賃金のサブシステムが準備されてきた。
このサブシステムが果たしている役割をわれわれの世界では「消費の平準化」、コンサンプション・スムージングと言う。これはキーワードであり、高齢期に集中する生活費に若いときから関わって、将来、自分がその制度を利用するという形で支出を平準化しているから、われわれはコンサンプション・スムージングと呼んでいる。消費の平準化を主にはたしている社会保険は、社会保障給付費の9割近くを占めていて、国民の圧倒的多数の人たち、つまり中間層の生活を守っている。