北村陽インタビュー 音楽の歓びと抑圧
2024年11月スペインで開催されたパブロ・カザルス国際賞において、若きチェリスト北村陽がアルネ・ツェラー(ドイツ)とともに優勝の栄冠に輝いた。北村陽は2004年生まれ。これまで各地の国際コンクールで優勝を成し遂げ、2023年からベルリン芸術大学でイェンス=ペーター・マインツに師事している。使用楽器は1668年製カッシーニ。12月11日にはHakuju hallでベートーヴェン、ブラームス、ヤナーチェク、ショスタコーヴィチというプログラムでリサイタルを行う。そのプログラムの構成、内容について語ってもらった。 【画像】その他の写真 「まず、冒頭のベートーヴェンのチェロ・ソナタ第4番と最後のショスタコーヴィチのチェロ・ソナタは対比を意味しています。ベートーヴェンは幸せで音楽の歓びが感じられる作品。ショスタコーヴィチは抑圧されたなかで書かれた作品。その内容の違いを表現したいのです。ブラームスのチェロ・ソナタ第2番もドイツ音楽の歓びを感じさせる。このソナタは私が大好きな作品です。ドイツに留学してちょうど1年になりますが、ベルリンという非常に多くの歴史を背負った町に暮らし、日々さまざまなことを経験することにより自分が変わっていくのを強く感じています。マインツ先生のレッスンも楽譜に忠実で、表現力の幅を広げてくれ、新たな視点が増えます。すべての感覚が日々変容し、自分の内面がまるで入れ替わったように変貌しています」 こう語る彼はこの1年でヨーロッパの歴史、伝統、建築、音楽、美術に触れて自身が大きく成長したと感じ、それらをより多く吸収し糧にしたいという。その語り口は非常に熱く前向きで、エネルギーに満ちていてたのもしい。さて、前半のドイツ作品とはがらりと雰囲気を変え、後半はヤナーチェクで幕を開ける。 「今年は3度もチェコを訪れる機会があり、プラハのドヴォルザークホールでドヴォルザークの曾孫にあたる人の前でドヴォルザークのチェロ協奏曲を演奏することができ、感動しました。そこでもうひとりのチェコ作曲家、ヤナーチェクの《おとぎ話》を組みました。この曲はロシアのジュコーフスキーの詩に基づいて書かれていますので、ショスタコーヴィチにつなげる意味を備えています。今回はドイツで勉強した成果を聴いていただきたいと思い、いまもっとも表現したいプログラムを組みました。長年共演を続けているピアニストの大伏啓太さんにも留学する前と比較してほしいと思っています。4作品ともピアノの難度がとても高いので大変だと思いますが…」 北村陽は幼いころから祖父が愛聴していたカザルスの「バッハ:無伴奏チェロ組曲」の録音を聴き、カザルスに憧れてきた。 「カザルスの生地で開催される国際賞(コンクール)にはぜひ参加したかったのです。本選前日にカザルスの生家の前に広がる海を散策し、海の音を録音しました。その深い音がカザルスの音の響きを感じさせたからです」 若き逸材は広い海原に漕ぎ出したばかりだ。 取材・文:伊熊よし子 ※インタビューの際予定されていたプログラムから曲順が変更となっております。 北村陽 チェロ・リサイタル 12月11日(水) 19:00開演 Hakuju Hall