「読者の7割ばあちゃん」福岡の新聞ヒットの裏側、75歳以上が働く「うきはの宝」のリアルに迫る
うきはの宝の代表の大熊さんは、2019年に39歳でこの会社を設立して、次々と新たな仕掛けを展開してきた。 農林水産省「INACOMEビジネスコンテスト」最優秀賞などを受賞し、数々のメディアでも紹介され、スタンフォード大学の教授が研究・取材に来たこともある。しかし「いやあ、自分としては成功にまだまだ遠くて……。人生をかけて頑張ります」と自らを鼓舞する。 大熊さんはうきは市の公務員一家に生まれ、「何となく生きづらさを感じる」幼少期だった。高校に進学するも中退し、大好きなハーレーダビッドソンに関わる仕事をしたくて、整備やカスタムなどの技術を学ぶ。
■どん底の入院生活でおばあちゃんたちが支えに しかし20代半ば、バイク事故で大けが。大手術を繰り返し、入院生活は4年ほどに及んだ。バイク屋になる夢は絶たれ、精神的にもどん底に。「まるで廃人だった」という大熊さんの心を動かした唯一の存在が、入院中のおばあちゃんたちだった。 「ばあちゃんたちは『なんで入院してるの』とか遠慮なくどんどん話しかけてくる。心を閉ざしていた僕はずっと完全に無視していたけど、ふと気づいたんです。長い入院生活を続けるうちに、話しかけてきたばあちゃんたちが亡くなり、ああ、命には限りがある、僕は生きているんだって」
30歳を前に退院して地元に戻り、働きたくて数十社に応募。しかし「不況のさなか、中卒の僕を雇ってくれるところはなくて。自分は誰にも必要とされていないとショックを受けました」。 唯一身につけていたバイク部品の販売をしようと起業し、デザインやマーケティングを学ぶと仕事が入ってくるように。 しかし、おばあちゃんたちの役に立ちたいという思いが募り、知人に勧められた社会起業家の育成スクール「ボーダレスアカデミー」を受講。地元でシニアの無料送迎サービスをしながら、1000人以上にヒアリングした結果、「年金にプラスして、ちょっと仕事ができるといい」という声を多数聞いた。