手を汚さずに使えるでんぷん糊「タピコ」 ありそうでなかった文具の開発秘話
海外向け液状のりのキャップを流用
キャップの開発では液状のり「アラビックヤマト」に使われているメッシュ状のものや、スポンジを使ったようなものも検討。実際にチューブに取りつけて試したところ、これらではヤマト糊がきちんと出てこなかった。 こうした結果を踏まえ、たどり着いた理想的なキャップは穴の開いたプラスチック製。過去に海外向け液状のりに採用したキャップを取り付けて試したところ、ヤマト糊がスムーズに出てきたので何一つ変更することなく採用した。 海外向け液状のりは、村上氏が海外営業を担当していた時につくられたもの。中央に穴が7つ開いていたことから「使えそうだと」とひらめき、試しに使ってみた。穴が開いている中央の透明部は柔らかく、押し付けて塗り広げやすくできていた。 「海外向け液状のりはもう終売になりましたが、キャップを作る金型は残っていました。このまま使えればコストダウンも可能だったので試してみることにしました」 こう振り返る村上氏。でんぷん糊自体もこれまでのヤマト糊とは全く変わらないので、開発は順調に進むかに見えた。 だが、課題はキャップや糊そのものとは別のところにあった。問題は容器。これまでヤマト糊で使ってきたチューブとは別に新たに設計したが、握力が弱い子どもでも押し出しやすいものにすることが求められた。 「6回ほど容器を試作しましたが、最初のほうは『硬い』という課題がありました。硬いと糊が出てこないので子どもだと最後まで使い切れません」 このように明かす村上氏。柔らかくするには薄くしないとならないが、薄くすると成型時に穴が開くため、むやみに薄くすることもできなかった。ボディを薄くすることで起きる問題は他にもあった。口の厚みを確保しなければ製造時に樹脂がきちんと充てんできず、成型不良を起こしやすくなる。口がしっかり成型されていないと糊が漏れ出てくる恐れもある。 容器を製造するタイの工場で、新たに作ったチューブの金型でテスト成型を繰り返し実施。品質が担保できそうなものを日本に送り、国内でテストした結果を工場にフィードバックし、金型の修正、成型時の樹脂の温度や射出スピードといった成型条件の見直しなどを行った。 チューブの材料は既存のヤマト糊と同じくポリエチレン。グレードによって特性が微妙に異なることもあり、選定も悩ましかったという。