「映画監督って、優秀な詐欺師じゃないとできない」上田慎一郎監督、騙し合いバトル描く内野聖陽×岡田将生主演の最新作
怒りを隠して生きていくことに対する「待った」みたいな映画
──一方、熊沢の部下・望月さくら(川栄李奈)の存在も際立ちます。彼女は熊沢と違って、最初から自分に嘘をつかない。すごく誠実に生きている。だからこそ世の中をうまく渡れないところがあります。 僕は、熊沢と望月のどちらの立場も理解できます。若いときは、望月のように「とにかく正しいことをやっていこう」「理不尽なことは許したくない」と正義感に燃えていた。でも大人になると、自分を誤魔化す熊沢の生き方もすごく共感できる。大人になって、自分の生活や家族を持つと、そういう怒りをなかったことにした方が「割りに合う」ということも学ぶんです。 ──その通りだと思います。 なにか意見を口にして、そこで激しい反論があったりすると「なにも言わない方が良かったんじゃないか」と思うことは誰だってあるのではないでしょうか。しかし一方で、怒りというものが社会を前進させてきたところは間違いなくある。割に合わないから怒りを隠してうまく生きていくことに対する、自分なりの「待った」みたいな映画でもあると捉えています。 ──まさにその部分を伺いたかったんです。個人的な上田監督のイメージって、常に明るくて、なにがあってもエンタメで返す人だと思っていて。だからこそ『アングリースクワッド』というタイトルや、怒りを原動力とする今回の物語が意外だったんです。 これはあまり言っていないことなんですけど、もともとのタイトルは、原作ドラマの原題『Squad38』にならって『スクワッド30』でした。日本の納税義務が憲法30条にあたるからです。でも脚本を書いているとき、コロナ禍をきっかけに今まで伏せられていた闇や感情がみたいなものがSNSを中心に湧き上がっているように感じ、そこで『アングリースクワッド』にしようと思ったんです。 ──そういう背景があったんですね。 世の中的に「これは納得できない」と思うこともあるし、あと誤解を恐れずにすごく細かいことを言いますけど、インタビューを受けているときも「いやぁ、もう少ししっかり質問を考えてきてほしいな」ということもあったり(笑)。 そういう、大きいアングリーから小さいアングリーまでいろいろ生まれることもあって。でもそのなかには、やり過ごしちゃいけないアングリーもある。そういうものだけは忘れちゃいけない。で、怒りを抱えた人たちのチームということで『アングリースクワッド』にしました。 ──そういう怒りを作品として昇華させたところは、表現者として正しいことだと思います。 そういえば以前、石坂浩二さんが映画祭の場で「創作はここから生まれるんです」と腹の底に抱えている怒りから表現は生まれるという風におっしゃっていました。それがすごく印象に残っているんです。常日頃から意見として怒りを発信するのは大切なこと。一方で、怒りを蓄積してそれを作品としてあらわすのもクリエイターのあるべき姿かもしれないですね。 ──そういった感情の部分を込めながら、しっかり娯楽性を込めているところがさすがです! 映画って、お客さんとの勝負だと考えています。先ほどお話したように、僕は詐欺師になったつもりで鑑賞者を騙そうとしています。特に今回の作品のようなときは、僕は先の展開を読まれないようしています。 でもみなさんは、先を読もう、読もうとしてほしい。それでも僕は、みなさんに先を読まれない自信はあります。だからぜひ、気持ちよく負けに来てください。こういう映画は、お客さんとしては負けた方がおもしろいはずなので! ◇ 映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が11月22日より全国公開される。