「映画監督って、優秀な詐欺師じゃないとできない」上田慎一郎監督、騙し合いバトル描く内野聖陽×岡田将生主演の最新作
「氷室の言葉が、映画を作っている自分にも跳ね返ってくると感じた」
──それにしても今作然り、上田監督の作品には必ずと言って良いほど「嘘」がテーマとして出てきます。なぜそんなに「騙す」「騙される」が好きなのでしょうか。 確かに嘘を際立たせたところは韓国の原作ドラマ『元カレは天才詐欺師~38師機動隊~』にはない要素ですね。 ──序盤、熊沢は氷室に騙される。そこでショックを受ける。そのやりとりがちゃんと効き目を持っていて、熊沢は「誰かに騙されるのはショックなこと」と認識しながら、それでも「ある目的」のために詐欺をする側にまわる。それだけ彼は「ある目的」を成し遂げたいのだということが分かります。 今のご質問で思い出したことがあります。それは、熊沢が最初は「事なかれ主義」だったこと。ハリのない毎日を過ごしていたけど、詐欺集団に入って嘘をつきはじめてから、いきいきとしていく。 脚本を書いていたとき、どっちが本当の熊沢なんだろうと思っていたんです。序盤の熊沢って、誰かを傷つける嘘はついていないけど、本当の自分を偽って生きています。でもそのあと、悪者である橘を成敗するために嘘をつき始める。そうすることによって、自分自身に嘘をつかなくなっていく。本音で生きるようになるんです。 ──なるほど! あと氷室が劇中「詐欺の基本は偽物を本物に見せること」という風に言いますが、それは映画というものにも当てはまる。そもそも映画って嘘の物語じゃないですか? 嘘をホンモノに見せる、それが映画。だから氷室の言葉って、映画を作っている自分にも跳ね返ってくるものだと感じていたんです。そして「この言葉の責任を持てるように、映画を作らなきゃ」となりました。 ──そうそう。たとえばドキュメンタリーだって編集が加わるし、あとカメラを向ければ被写体は自然体ではいられない。つまり「すべての映像作品は嘘である」と言えますよね。 その嘘をいかにホンモノに見せられるかどうか、なんです。つまり映画監督って優秀な詐欺師じゃないとできないというか。でももちろん映画で嘘をつくのって悪いことではなく、時にはつらい現実をひとときでも忘れさせてくれるので、自分はそういう楽しい嘘みたいなものを映画のなかでついていきたいですね。