子どもの心の健康にも「沈黙は金」、その大きな効果と処方箋 「子どもの発達に極めて重要」
静寂の背後にあるサイエンス
子どもにとって、静けさは心の休息以上のものだ。「子どもの健全な成長には静寂が必要です」と語るのは、ドイツのフライブルクにあるカトリック応用科学大学で美学とコミュニケーションを教えるエリック・プファイファー教授だ。 「静寂は子どもの発達に極めて重要です。オーケストラのメンバー全員が全く休みなく演奏し続けるさまを想像してみてください。うるさくて我慢できないはずです」 基本的に、静寂は注意が散漫になるのを抑え、子どもがリラックスするのを助ける。さらに、リラックスは海馬の活性化を促す。海馬は、記憶の形成に重要な脳の領域で、意思決定や共感といった生活に必要なスキルを支える。従って、静寂の間、子どもは思考を整理し、自分の感情を理解し、ストレス反応を修正できる。 また、静寂は子どもに自分の内面を見つめさせ、アイデアを深く考えさせる場にもなる。さらに、米国の教育者向けの非営利団体の研究によれば、そうした能力が身に付いているティーンエイジャーの脳は、そうでない者よりも成長するという。「こうした成長はやがて自己への好意を生み、友人や職場での人間関係への満足感を生みます」と、同研究の共同執筆者のイモルディーノ氏は説明する。 「静寂に近い」状況を意識するだけでも、子どもの感情によい影響を与えるという説もある。 子どもを対象にした研究はまだ行われていないが、シンギングボウルの奏でる心地よい音が脳の報酬領域を活性化し、幸せホルモンのひとつであるドーパミンを分泌させる可能性を示唆する研究がある。さらに、英サセックス大学の研究チームは、脳は、水が流れる音といった自然の音を聞くと、意識が外に向き、副交感神経系(落ち着き、安らいだ状態に関与)を刺激することを突き止めた。逆に、車のクラクションのような人工的な音は、脳の前頭部に、うつ状態や不安時に見られる脅威反応を引き起こすという。 前出のプファイファー教授は、子どもにさまざまな静寂の場を経験させておけば、成長したときに、そうした静寂の時間を再発見しやすくなる、と説く。親はそんな静かな時間をどう作ればよいのか、具体的な方法を紹介する。