「いつもこれを注文していたよ」25年ぶりの客を忘れることなく歓迎した店主を送る最期の宴会
北米中華、キューバ中華、アルゼンチン中華、そして日本の町中華の味は? 北極圏にある人口8万人にも満たないノルウェーの小さな町、アフリカ大陸の東に浮かぶ島国・マダガスカル、インド洋の小国・モーリシャス……。 世界の果てまで行っても、中国人経営の中華料理店はある。彼らはいつ、どのようにして、その地にたどりつき、なぜ、どのような思いで中華料理店を開いたのか? 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 一国一城の主や料理人、家族、地元の華人コミュニティの姿を丹念にあぶり出した関卓中(著)・斎藤栄一郎(訳)の 『地球上の中華料理店をめぐる冒険』。食を足がかりに、離散中国人の歴史的背景や状況、アイデンティティへの意識を浮き彫りにする話題作から、内容を抜粋して紹介する。 『地球上の中華料理店をめぐる冒険』連載第17回 『「苦労なしに幸せな生活なし」…故郷の思い出を語るうえで浮き彫りになった中国人移民に共通する「開拓精神」と「価値観」』より続く
心からの追悼
アウトルック公民館で開かれたジムの葬儀は、まるで町の住人全員が集まったかのようだった。遠くトロントやバンクーバーから駆けつけたジムの親族もいた。 棺の付き添い人は6人、さらに名誉付き添い人には12人が名を連ねた。また、棺の前を歩く旗手役として地元高校のアイスホッケー部員全員が勢ぞろいした。 一家と親交の深かったジョン・バブラは、心からの追悼の辞を述べた。 「地元を離れた昔の常連客が25年ぶりにジムの店に集まったことがありました。 懐かしい面々が来店するたびにジムは一人ひとり名前を呼んで歓迎してくれました。そして『料理はこれだな。飲み物はこれで良かったかい? 』と聞いてくるんです。 私たちが『どうしてわかるんです? 』と不思議そうに尋ねると、『だって25年前、あんたはいつもこれを注文してたよ』って言っていました。 みんなのことをこんなにしっかり覚えていてくれるのは、友を心から大切に思っている証拠です。ちょっと武骨だけど人を楽しませてくれたジムには、サービスのあるべき姿を教えてもらったように思います」