「安倍やめろ」✕「増税反対」〇、北海道警ヤジ排除事件、賠償確定でも残ったモヤモヤの正体
●大杉さんの実感では「3分の2ぐらいは勝っている」
とはいえ、ヤジが原則として、言論・表現の自由で認められるという判断の大枠は、1審判決から揺らいでいない。この点を高く評価するのは、敗けたはずの大杉さんだ。 「争いを通じてずっと言ってきたのは『ヤジは表現の自由で認められていて、不当に排除できない。選挙妨害にもあたらない』という主張。裁判ではこれが全体として認められたので、ぼくの部分で敗けたとしてもそれを『別のこと』として切り離す必要はないかなと」 一部逆転敗訴には納得しかねるが、訴えを起こす意義はあった――。大杉さんの実感では「3分の2ぐらいは勝っている」という。ここに至るまで、排除事件が起きてから5年以上の時間を費やさなくてはならなかった。 1審原告の2人は、事件の直後からさまざまな方法で警察の責任を追及してきた。排除にあたった警察官らを特別公務員暴行陵虐などの罪に問う刑事告訴や、排除行為を刑事事件として扱うよう裁判所に求める付審判請求、先の告訴事件が奏功しなかった結果へ異議を唱える検察審査会への審査申し立て。 だが、これらはことごとく退けられ、唯一残された手段こそが国賠訴訟の提起だった。
●原告代理人「公安委員長が引責辞任すべき事態と言ってもいい」
刑事司法機関が一斉に袖にした訴えは、民事裁判でようやく実を結ぶことになる。繰り返すが、そこに至るまで5年強。大杉さん・桃井さんが実質全面勝訴した先の札幌地裁判決を道警が受け入れていれば、争いは2年半で決着したはずだった。 1審判決に抵抗し、控訴・上告に踏み切った道警は、地方自治体・北海道の一機関。その長である鈴木直道知事は、上訴の判断に事実上関与しなかったことを過去の議会答弁などで認めている。控訴も上告も、ひとり警察本部の判断でその方針が決まり、知事決裁は副知事が代行していたのだ。蚊帳の外だった鈴木知事は、今回の判決確定から1週間が過ぎた8月27日の定例記者会見で改めて判決について問われ、こう答えた。 「本件につきましては、警察官の職務執行を管理し、事実関係を把握している道警察において、第一審から一貫して方針を判断して対応したものです」 主語は飽くまで「道警察」。自身の不在を自ら強調するかのような回答は、こう続く。 「今後の対応につきましても、道警察において適切に進められていくものと考えております」 当の道警は、筆者の取材に「当方で上告受理申し立てをした事件については、当方の主張が認められなかったものと受け止めている」と回答、あわせて「最高裁の決定を真摯に受け止め、今後の警護に万全を期していく」とコメントした。 道警の判断をスルーしたのは、自治体トップの知事のみではない。本来警察を監督するはずの公安委員会もまた、道警の方針にまったく異を挟むことなく2度にわたる上訴の決定を受け入れた。先述の大杉さんらの会見に同席した齋藤耕弁護士はこれを厳しく批判する。 「警察を指導・監督すべき公安委員会は、道警の報告を受けただけで判決文も読まずに了解を出しました。結果として警察の違法が認められた事件で、何のコントロールもできなかった、何もしなかった。これは公安委員長が引責辞任すべき事態と言ってもいいと思います」 筆者はその公安委へも取材対応を打診、「今回の最高裁決定をどう受け止めるか」及び「一連の対応は適切だったか」の2つの問いを向けたが、2日を経て返ってきた"回答"は次の一文のみだった。 《個別の案件について取材対応及びコメントは致しかねます》 なお、公安委の取材対応窓口は道警の広報課となっている。警察の指導・監督を担う公安委と、それを受ける立場の警察とは、事実上は互いに独立していないようだ。