「安倍やめろ」✕「増税反対」〇、北海道警ヤジ排除事件、賠償確定でも残ったモヤモヤの正体
●大杉さんは高裁で「逆転敗け」を喫していた
実質敗訴した大杉さんは、1審判決では全面勝訴しており、高裁で逆転敗けを喫したかたちだ。2審判決から1年あまり溯る2022年3月、札幌地裁(廣瀬孝裁判長=当時)は警察官らの排除行為の多くを違法・違憲と評価する判決を出し、当時の一連の警察対応が「表現の自由」侵害にあたると指摘し、被告の北海道警察に原告2人への損害賠償を命じた。 言い渡しの場では「ヤジは選挙妨害」なる事実誤認の言説がSNSなどで拡がりつつあった状況に警鐘を鳴らすかのように、廣瀬孝裁判長が強い口調で「そのような主張は被告(道警)ですらしていない」と付言している。 原告が得た「完全勝利」の判決は、しかし、すでに述べた通り1年あまりの寿命に終わった。地裁の判断を不服とした道警が控訴したことで、争いの場は高裁へ。その審理では、荒唐無稽とも言える道警の「再現動画」や排除正当化の根拠として提出された「暴行動画」などが原告側の失笑を招き、およそ逆転の兆しがみられないまま結審に至っている。 ところが、その高裁が出した結論は「半分勝訴」の一部逆転判決。今回の最高裁決定を受けた先述の会見では、原告代理人らがこれを振り返り、改めて「非常識な事実認定」と批判することになる。 「高裁は、与党関係者が大杉さんの腕を軽く押した場面の映像を根拠に、大杉さんの生命・身体に危険が及んだと判断しています。これはどう考えても非常識な判断。裁判所がどういう意図をもっていたのかはわかりませんが、この非常識な判断が今回の結果を招いたということに尽きると思います」(小野寺信勝弁護士)
●「そんな馬鹿な、と笑っていたら、その滅茶苦茶な主張を裁判所が認めてしまった」
道警側が控訴審で提出した証拠の1つに、ヤジを飛ばす大杉さんが与党関係者から腕を押される場面を記録した動画がある。当時の道警は、この腕を押す行為が大きなトラブルに発展するのを回避するため、警察官職務執行法4条に基づいて大杉さんを「避難」させたと主張していたのだ。 やはり最高裁決定後の会見で同じ話題に言及した桃井さんは、呆れ声で次のように指摘する。 「暴行される側が『言論の自由』を奪われる滅茶苦茶なことになっている。これ、『気に入らない奴がいたら暴行しろ、そうすれば警察がそいつを排除してくれるぞ』っていうことになりますよ」 当時の驚きを振り返り、「そんな馬鹿な、と笑っていたら、その滅茶苦茶な主張を裁判所が認めてしまった」と桃井さん。先の小野寺弁護士も「裁判所が警察官の行為にお墨つきを与えた」と唇を噛む。小さからぬ「モヤモヤ」を孕む高裁判決を書いた大竹優子裁判長は、この言い渡しの直後、札幌家裁の所長に異動した。