〈奥能登豪雨2カ月〉屋根に避難、直後に土石流 珠洲・大谷の消防団員 濁流の中誘導、2階から呼び掛け
●「これからどうなる」 仲間と必死に郵便局の屋根に上った数秒後、眼下を土石流が一気に流れ下った。奥能登豪雨による土砂崩れで1人が犠牲となった珠洲市大谷町。住民の避難誘導に当たり、間一髪で難を逃れた消防団員の男性が20日までに取材に応じ、当時の状況を振り返った。豪雨から21日で2カ月。道路は復旧したが、泥だらけの集落に住民の姿はない。男性は「大谷はこれからどうなるのか」とつぶやいた。 【写真】家々が泥に埋もれた集落に立つ加藤さん あの日は突然、雨脚が強まった。大谷町にある「潮騒レストラン」の店長で、消防団員でもある加藤元基さん(33)は、9月21日午前10時前、臨時休業を決めた。 加藤さんは団員の先輩2人と午前10時半ごろ大谷町の集落へ。「無我夢中だった」。3人で、腰の高さにまでかさが上がった濁流の中を進み、住民に避難を呼び掛けた。一部が土砂に埋もれた家では、2階の窓から「誰かいますか」と声を掛けて回った。 ●垣根足場に必死 目の前で「ドーン」という轟音が響き、山が崩れ始めたのは午前11時半ごろ。「逃げろ」「やばい」。3人は垣根を足場に、郵便局の屋根へ必死に上がった。直後、大量の土砂と流木が、家々をのみ込んだ。しばらくして屋根から下り、木の枝などをつかみながら泥の上を歩いていたところを、駆け付けた建設会社の重機に救出されたという。 集落では加藤さんらが声を掛けた住宅の中で、女性の遺体が見つかった。 現在は道路の泥が取り除かれ、近くに別の仮設道路も完成。だが、道の両側の家は泥に埋もれたままだ。まだ2カ月なのか、もう2カ月なのか、変わり果てた集落の姿を見ると無力感にさいなまれる。加藤さんは「復旧が早いとか遅いとかは、5年10年たたないと言えない。でも、豪雨を忘れてはいけない」とこぼした。 国土交通省の専門家は、大谷町では地震で集落の裏山の尾根から崩れた土砂が谷にたまり、豪雨で400メートル以上の土石流を起こしたと分析する。林野庁は数万立方メートルの土砂が集落近くに残っていると指摘。石川県は11月14日、豪雨被害で初めて大谷町の19世帯を長期避難世帯に認定した。 ★能登半島の豪雨災害 能登半島で9月21日、線状降水帯が発生し、輪島市で1時間に121・0ミリの猛烈な雨を観測、気象庁は輪島市、珠洲市、能登町に大雨特別警報を発表した。土砂崩れによる道路寸断で、最大115カ所の集落が孤立状態となった。28河川で氾濫が発生。元日の能登半島地震で自宅を失った被災者向け仮設住宅も浸水するなど、地震からの復旧に大きな影響が生じた。