リーグ3連覇の青山学院大・佐々木泰が語った苦悩のシーズン 「あそこで打てなかったら...キャプテン剥奪でした」
三塁側ベンチが見えた瞬間、どんな思いが去来したのか。のちにそう聞くと、佐々木は苦笑しながらこう答えた。 「本当にごめん。お待たせ......みたいな感じです」 主将の一発に奮起したのは、この日の先発マウンドを託された中西聖輝(3年)だった。中西は試合後にこう振り返っている。 「立ち上がりは緊張で体も思うように動かなくて、コントロールもできていなかったんですけど、キャプテンの一打で完全に目を覚めさせられたというか。自分のなかで戻ってくるものがありました」 中西は中央大打線を散発5安打に抑え、9回まで投げ抜く。最後の打者をショートゴロに打ち取った瞬間、青山学院大の3季連続リーグ優勝が決まった。 グラウンドで表彰式と安藤監督の胴上げを終えたところで、佐々木と目が合った。「おめでとうございます」と声をかけると、佐々木は心底ホッとした表情でこう答えた。 「いや、あそこで打ってなかったらもう......キャプテン剥奪でした」 このひと言に、佐々木の苦悩が詰まっていた。 本塁打を放ったあとの2打席は安打こそ出なかったものの、佐々木らしい豪快なスイングが戻っていた。6月11日の大学野球選手権大会(福井工業大と桐蔭横浜大の勝者と対戦)では、本来の佐々木の姿が見られるだろう。 壁を越えた先に、どんな世界が待っているのか。稀代のスラッガー・佐々木泰の逆襲が始まった。
菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro