妻に先立たれた男性の困難 自分の下着のサイズを知らず「野に放されたヒヨコ状態」に
妻を亡くし、悲しくて引きこもる。それはそれで、本人がいいのであれば、いい。でも、自分はまだ、生きている。生きたくても生きられなかったパートナーのために、ポジティブに生きることが大事だと言う小谷さん。そのために私たちが注意すべき点についてこう話す。 「夫婦仲が良いのはもちろんいいこと。ただ、夫または妻だけしか頼れないという共依存の状態はとてもリスキーです」 なぜか。パートナーを失った後を生きる上では、「我慢しない」が大切になってくるからだ。 「『男たるもの』という気持ちからか、悲しくてつらくても思い切り泣いたり怒ったりできない人が多い。でもパートナーを失うという人生の大きな危機に直面したのだから、がまんしなくていいんですよ。自分の気持ちを吐露できる、とくに『泣ける友だち』をパートナー以外に作っておく。そんな人間関係のリスクヘッジが大事です」 ■死んだ人の分も生きる 回復しない悲しみ。漫画原作者の城アラキさん(71)は、今年5月に上梓した『妻への十悔 あなたという時間を失った僕の、最後のラブレター』を、自分にとってかけがえのない「誰か」を失った「あなた」に読んでほしいと話す。 「かけがえのない誰か。私にとってはそれが妻だった。大切なのは『死んだ人は、あなたが幸せになってくれることを必ず祈っている』ということ。何をするにも、どういう判断をするにも、それを頭に置いておく。それが、『死んだ人の分も生きる』ということだと思います」 仲睦まじい夫婦もいれば、いがみ合う夫婦もいるだろう。でも少なくとも今、二人とも元気で生きている夫婦だからこそ、大切にしてほしいことがあると城さんは言う。 「多くの夫婦は、『先のこと』ばかりを二人で見ているんです。子ども欲しいよね。いつか家も買おうか。老後はどうしようか、など5年後、10年後の未来は見るけど、目の前の相手との『日常』をちゃんと見ていないことが多い。私もそうでした」 でも一緒にご飯を食べたり、喧嘩したりといった何げない日常の時間は、病気や災害などさまざまな形で、たちまち失われることがある。そのときになって初めて、それがどれだけかけがえがなく、取り返せないものであるか、そして同時に未来も失うことであるかに気づくのだ。 「夫婦は『先』だけを見るのではなく『今』を大事に、お互いの目を見て向き合う二人だけの日常を重ねてほしい。そうすることでもしかしたら後悔のない、たとえどちらかが亡くなったとしても『じゅうぶん生きた』という思いになれるのかもしれない。そう思います」 (編集部・小長光哲郎) ※AERA 2024年12月23日号より抜粋
小長光哲郎