年金を増やすなら「繰下げ」か「新NISAで運用」か…“究極の二択”に悩む64歳会社員が出した「意外な結論」【FPの助言】
加給年金が受け取れて、運用にもお金が回せる方法がある!
永瀬FPは、具体的に下記2つのケースをシミュレーションしました。 (1)老齢基礎年金も老齢厚生年金も65歳から受給しながら積立運用し、70歳から90歳までの間に毎月定額で取り崩す (2)老齢厚生年金だけを65歳から受給しながら積立運用し、70歳から90歳までの間に毎月定額で取り崩して老齢基礎年金は70歳から繰下げ受給する (1)の場合、平均運用利回りを保守的な6%と仮定すると、70歳から90歳まで月20.8万円受け取ることができます[図表1]。もしも8%で運用出来れば、月22.4万円受け取ることができます。ただし、加給年金は受け取れません。 これに対して、(2)の場合は、平均運用利回り6%の場合で月20.5万円、8%の場合は月21.5万円受け取ることができます[図表2]。利回りがもっとよければ、受取額はさらに増加します。そのうえ加給年金も受け取ることができます(ここでは、加給年金は老後の生活資金とは別の余裕資金と考え、計算からは除外しています)。 このように、老齢基礎年金だけを繰下げれば、加給年金というボーナスをもらいながら、老齢基礎年金の繰下げで着実に年金を増やすことができ、受給する老齢厚生年金の運用が4.44%以上であれば、手取り額をさらに増やせる楽しみもあるというわけです。
メリット・デメリットを理解してベストな選択をしよう
ここまで解説した、手取額(1カ月)のシミュレーションをまとめると[図表3]のようになります。 永瀬FPは最後に、下記のように田中さんに話しました。 「現在64歳の人の平均余命から計算した平均寿命は、男性で84歳、女性で89歳です。受取累計額について、老齢基礎年金も老齢厚生年金も70歳まで繰下げして受給する場合の方が、老齢厚生年金だけを65歳から受給しながら積立運用し70歳から90歳までの間毎月定額取り崩しし老齢基礎年金は70歳まで繰下げ受給する場合を上回るのは、平均運用利回り6%の場合は93歳9か月、平均運用利回り8%の場合は99歳1か月と、平均的な寿命を超えてからとなります。 では、絶対に投資したほうがいいのかといえば、そうと言い切れるものではありません。きちんとした知識を身に付けて投資にチャレンジすれば、繰下げ以上に資産を増やせるチャンスがありますが、投資にはリスクがあり、期待通りの運用利回りが実現できる保障がないことは理解しておく必要があります。新NISAを使えば確実に得すると勘違いする人もいますが、それも間違いです。 一方で、繰下げでの受取額増加はあらかじめ割合が決まっているので確実ですが、一番最初に説明したとおり、年金を受け取れない空白期間ができますし、増加にも上限があります。どの選択肢にもメリット・デメリットがあることを理解して決めることが大切です」 田中さんは、中国の思想家、韓非子(かんぴし)の「良医は病を防ぎ、良相は乱を防ぐ」という言葉を思い出していました。素人では気づくことのできない適切な年金戦略を事前に立てることで、将来の経済的問題を予防する方法を学ぶことができました。 そして最終的に、老齢基礎年金だけの繰下げを行い、老齢厚生年金は受給しながら新NISAで効率よく運用することで、可能な限り収益を最大化することを選択しました。これは、人によっては意外な選択かもしれません。しかし、田中さんは、きちんと理解して決めたことで「これがベスト」と、ようやく霧が晴れた気持ちになったのでした。 田中さんが今回学んだのは以下の内容です。 年金の繰下げ受給により毎月の受取金額は確実に増えるが、繰下げ期間中の生活費の手当てや税金、社会保険料の負担増などの考慮も必要(それ以外の期間についても不足分の手当ては必要)。繰下げせず65歳から年金を受給し、新NISAの非課税メリットを活かし複利効果を使って運用することも有力な選択肢。選択に一つの解答はない。その人のリスクについての考え方次第。老齢厚生年金は65歳から受給し老齢基礎年金だけを繰下げる方法では、加給年金も受け取りながら運用することにより年金増も狙える。運用にはリスクが伴うので注意が必要。しかし、年金制度と投資の両方についてしっかりした知識を得たうえで適切にリスクをコントロールして活用すれば人生の楽しみが増える。年金受給の選択には、加給年金なども含め多くの個別・複雑な要素が絡むため、FPなどの専門家のアドバイスを受けることが重要。田中さんが最適な方法を見つけた過程を通じて、読者も自分の年金受給方法について深く考えるきっかけとなれば幸いです。年金の受け取り方は一生に与える影響が大きいので、できるだけ早く・かつ丁寧に検討しましょう。 青山創星 ファイナンシャルプランナー
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