あえて観客を“興奮させない”演出の狙いとは? 映画『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』考察&評価レビュー
24年ぶりの続編となる『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』が公開中だ。前作から変化を見せたリドリー・スコットの演出、ハンス・ジマーの音楽、ポール・メスカル、デンゼル・ワシントンといったキャスト陣の演技に着目したレビューをお届けする。(文・島晃一)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】 【写真】あえて“興奮させない”演出にしびれる…貴重な未公開カットはこちら。映画『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』劇中カット一覧
リドリー・スコットの代表作の1本、満を持しての続編
『エイリアン』(1979年)や『ブレードランナー』(1982年)などと並び、リドリー・スコット監督の代表作に数えられる『グラディエーター』(2000年)。古代ローマ帝国の後継者争いに巻き込まれ、奴隷の身に落ちた将軍が、剣闘士(グラディエーター)として決闘に挑む歴史映画だ。 妻子の復讐のために、そしてローマの共和制という夢のために立ち上がる誇り高き将軍、マキシマスを演じたラッセル・クロウ。嫉妬にかられた傲慢な皇帝、コンモドゥスを演じたホアキン・フェニックス。そうした俳優たちの名演に加え、スペクタクルな映像、主題歌「Now We Are Free」をはじめとするハンス・ジマーの音楽など、『グラディエーター』は高い評価を得た。第73回アカデミー賞では、作品賞や主演男優賞を含む5部門の受賞を果たしている。 それから24年の時を経て、リドリー・スコットが再びメガホンを取ったのが、続編『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』だ。
前作よりも派手さを増した演出
『グラディエーターII』には、前作を思い起こさせる描写が多々ある。冒頭から最後まで、主人公ルシアス(ポール・メスカル)の手の所作は、1作目でマキシマスが作物やコロッセオの砂を触っていた手と重なる。妻を殺した将軍アカシウス(ペドロ・パスカル)への復讐を決意したあと、奴隷商人に買われコロッセオで決闘するまでの過程も、前作を彷彿とさせる。 また、ハンス・ジマーは今作のスコアを書いていないが、ジマーが主宰するリモート・コントロール・プロダクションのハリー・グレッグソン=ウィリアムズが音楽を引き継いでいる。「Now We Are Free」も引き続き使用された。 こうして前作を強く踏襲しているものの、演出はさらに派手になっている。 ガレー船による砦の攻略、何匹もの猿との戦闘、サイに乗った戦士。度肝を抜かれたのが、コロッセオに水を張った上での模擬海戦だ。水の中にはサメも放たれており、危機一髪の状況で2隻の船がぶつかり合う。 スケールを増した演出の数々に、まずはこの続編が作られた意義を見出せるだろう。 とはいえ、前作同様、『グラディエーターII』も、ただカタルシスを感じるだけのスペクタクルな娯楽大作にはなっていない。 『グラディエーター』では、無慈悲な暴力を娯楽として消費し歓声を上げていたローマの人々が、マキシマスと皇帝との闘いの果てに、最後には黙ってしまうカットが挟まれた。ローマ市民は、映画館の観客の似姿でもあるだろう。