キオクシア「上場塩漬け」で深まる2つのリスク、NAND価格は再び下落基調、深まるファンドの苦悩
■AI半導体ブームでDRAM需要が爆発 PBRはその企業に対し、株式市場が抱いている将来の成長期待のバロメーターだ。もちろんキオクシアの将来への期待が競合を上回ったPBRで評価されれば、時価総額はその分高くなる。だが現実的にはそのハードルも高そうだ。 というのもネックになっているのは、キオクシアはNAND事業しか手がけていないということだ。 ライバル企業の多くは、一時記憶にも使われる半導体メモリーのDRAMも手がけており、こちらではAI半導体ブームによって超高性能品の需要が大爆発。大手メーカーはこぞって大増産まっただ中にあり、株式市場からの期待も大きい。
加えてキオクシアは、NANDビジネスでも競合に比べて課題は多い。AI処理を行うデータセンターが急成長しているが、そこではNANDをシステムとして組み上げて高速化したSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)が求められている。だがキオクシアは「SSDのビジネスにほとんど入れていない」と、イギリスの調査会社オムディアの杉山和弘コンサルティングディレクターは指摘する。 こうしたキオクシアがライバルを大きくしのぐ成長性への評価を得るのは難しいだろう。
加えて「株主価値が2018年時点から大きく伸びていない」ということは、キオクシアと深い関係にあるウエスタンデジタル(WD)の株価の動きも参考になる。 前述したライバルのNANDメーカー5社の中で、DRAMを手がけていないのはキオクシアとWDの2社だけだ。かつ両社は長らくNAND工場を共同で運営しており、技術レベル・コスト構造ともにほとんど同じ。WDはNANDと併せてHDD事業も手がけてはいるものの、前述のようにDRAMに強烈な追い風が吹いている状況では、競合の中では唯一キオクシアと直接比較できる上場会社だ。
だがキオクシアがファンド傘下となった2018年6月からの株価推移を見れば、WDの独り負けは一目瞭然だ。さらにWDだけが唯一、2018年6月時点の水準に届いていない。超高性能DRAM・HBMで先行したSKハイニックスの株価は2倍以上、出遅れたサムスン電子ですら30%上昇しているのとは対照的だ。 ■上場が長引くほどリターンは目減り 仮にキオクシアの株主価値がWDのように2018年より目減りしている状況では、投資ファンドにとって今のタイミングでキオクシアを上場させる意味合いは薄い。一方で上場を長引かせれば、1年ごとにリターンは目減りしていくことになる。
キオクシアの早坂伸夫社長は「経営の自由度を上げたい」と“脱ベイン”への思いを周囲に話しているようだ。投資ファンドにとってもキオクシアにとっても、上場までの道のりが長引くことで苦悩は深まる一方だ。
石阪 友貴 :東洋経済 記者