中村時蔵 襲名から半年 不安を「演じる力」に
中村時蔵は現在、東京・新橋演舞場で歌舞伎NEXT「朧の森に棲む鬼」(いのうえひでのり演出、26日まで。来年2月、福岡・博多座)に出演中だ。劇団☆新感線とのコラボで松本幸四郎(51)、尾上松也(39)がダブルキャスト主演し、嘘(うそ)と欲望に支配される男の栄光と破滅を描く。時蔵は腕に蛇の入れ墨をしたツナという検非違使(けびいし)の長を演じている。 所作が美しく、よろい姿が似合う。後半になるにつれ、女性らしさが増す。本人は「特に女性を意識していません。これまで女形で培ってきたものが勝手に出ればいいなと」。粗野に聞こえるかもしれないが「勝手に」という表現に真意は隠されている。自然に、それも無意識にこなせる域。相当な芸がなければ成立しない。 古典歌舞伎中心で来たため、広い歩幅で駆ける姿だけで新鮮な印象を与える。ハードな立ち回りもある。新作歌舞伎に臨む役者たちから「古典の基礎さえきっちりしていれば大丈夫」というコメントを幾度となく耳にしてきた。今回ほど、その言葉に納得できたことはない。 ダークヒーローを演じる主演2人の“分析”も興味深い。「幸四郎の兄さんは最後のセリフを起点に巻き戻して役をつくり、全てを巻き込んでいく。松也さんは最初を起点に、そこから衝動的に悪に走っていくつくり方だと思いますね」。対照的な印象を持って共演している。 6月に中村梅枝から6代目時蔵を襲名して半年。「時蔵」と呼ばれることにも慣れたという。素顔は「石橋をたたいても渡らないタイプ」と人一倍の慎重派。「最初は不安でしたが、襲名させてもらって良かった。そして今年の最後をこの作品で締めくくれることも」。抱える不安を力に変えて。変化していく姿から、目が離せない。(内野 小百美)
報知新聞社