ゴーン容疑者逮捕 郷原弁護士が会見(全文1)有価証券報告書への不記載は犯罪か
今回の事件に対する郷原弁護士の疑問
そこでカルロス・ゴーン氏の事件の話に移りたいと思います。ゴーン氏の逮捕事実は検察の発表によりますと、2015年3月期までの5年間で実際にはゴーン氏の報酬が99億9800万円だったのに、有価証券報告書に合計49億8700万円だったという虚偽の記載をして提出したという事実です。有価証券報告書の虚偽記載の事実です。 このような有価証券報告書の虚偽記載の事実で、日産、ルノー、三菱自動車の会長を務めるゴーン氏が逮捕されたことに、私は大変驚きました。そこで非常に違和感、疑問を覚えたことについて、これは21日のブログの英訳版のところに最初のところに書いておりますので、こちらをご覧ください。 ここで、有価証券報告書の役員報酬を過小に、実際よりも少なく記載したというのが、今回の容疑事実ということなんですが、それは2つに分けて考えてみることができます。この犯罪事実は2つに分けて考えることができます。 まず1つは、ゴーン氏に対して、この事実によると年間10億円という役員報酬が支払われた事実、支払いがあった事実、これが1つです。支払いがあった。役員報酬の支払い。これがどういう形で支払われたのか、役員報酬と認定されるものがあったということが第一です。そしてもう1つは、そういう役員報酬が支払われてることを認識した上で、有価証券報告書の役員報酬の欄にそれを正しく記載しなかった。それを記載しなかった、不記載という事実です。 じゃあそのまず役員報酬とはなんなのかということです。記載されなかった役員報酬というのは。その可能性としていくつかが考えられます。まず第一に、通常の役員報酬が支払われて、年間、実際には20億円支払われてるのに、そのうち有価証券報告書の役員報酬の欄に記載されなかった。通常の役員報酬の支払いです。 その次に、これは先週、日経新聞が報じたんですが、ストック・アプリシエーション権、SARといわれる株価連動型の報酬。これが開示されなかったという話があります。支払われているのに開示されなかったという話です。そして、2日前の朝日、読売で報じられたのが、ゴーン氏退任後に支払いを約束された役員報酬があった。まだ支払われてない。退任後に、将来退任後に支払いを約束された報酬があった。これが3つ目です。そして最後に、いろいろ報道されてるんですが、海外でゴーン氏に自宅を提供したり、家賃の負担をしたというのが役員報酬だという話もあります。 で、この4つのどういう役員報酬が記載されなかったという問題なのかによって、この犯罪に関わったと考えられる人間の範囲が変わってきます。通常の金銭報酬とかSARの場合は、取締役などかなり広範囲の会社関係者が含まれると考えられます。一方、この海外での自宅の提供とか家賃の負担の場合は、知ってる人間は非常に少ないと、限られてるということも考えられます。ということで、いったいどんな役員報酬が記載されなかったのかということによって、どんな犯罪なのか、誰が関わったのかということがまったく違ってくるわけですが、これまでの報道ではここがまったく明らかにならなかった。よく分からないまま、ほかのことの報道ばかりが先行していきました。 そのことはいろいろすでに報じられているように、この件で検察とこの日産の役職員との間で司法取引が行われたと言われてますが、本当にその司法取引を行う余地があるのかというところに関係していきます。今、お話ししたように、この役員報酬の支払いというのが通常の金銭報酬だとか、SARだとかそういうものであれば、もうおそらく支払いの事実が客観的に明白で、それを記載するかどうかが問題だということになります。結局その司法取引というのはその犯罪が成立するもの、犯罪者でもある人間が捜査に協力することによって処罰を軽減してもらうっていうことですから、その人間にも犯罪が成立してないといけないわけです。ところが、客観的に明白な事実であれば捜査協力というのは考えにくいし、一方で、本当にごく一部の人間しか知らないような海外の自宅の提供などであれば、そういう人は有価証券報告書に虚偽を記載するというところに関わってるとは考えられません。 通訳:ちょっと待ってください。海外の件に関して一部の人しか知らない。 郷原:そういう人は、虚偽記載というとこ、有価証券報告書の記載には関わってると考えにくい。 そして、ようやく分かってきたことが、どうやら今回問題にされた逮捕事実の虚偽記載っていうのは、この赤で書いてます退任後の支払いの約束であったこと、これが50億の虚偽記載の事実であるということがどうも間違いないという状況になってきています。 もしそういう事実だとすると、検察のほうは、そういう支払いの約束についても有価証券報告書に記載する義務があると。だからそれを記載しなかったのは犯罪に当たると言ってるんですが、その点については重大な疑問があります。実際にお金として受け取ってしまった役員報酬というのは、そのあとどんなことがあっても返還させられることはまず考えられないわけですが、退任後に受け取る予定になっている単なる支払いの約束であれば、実際に支払うためには社内手続きが必要になります。それから仮に状況が変わって、例えば大幅な赤字でゴーン氏が引責辞任というようなことになったときには、それをとてももらえないということになると思います。そういう意味では支払いの確実性が実際にもらった場合とは、まったく違います。 日本には役員退職慰労金という制度があって、一定の期間、役員、取締役などを務めると、退職後に一定のお金をもらえるという制度があるんですが、その場合でもそういう役員退職慰労金についても、有価証券報告書の役員報酬の欄に記載されたという例は聞いたことがありません。 ということなので、もしこの虚偽記載が支払いの約束だったとすると、これが支払いの義務が、それについて記載の義務があったという点に非常に疑問がありますし、実際にそういうものを有価証券報告書に記載されてるというような実情もないということで、その逮捕事実には重大な疑問があります。逮捕が正当だったかどうかにということにも重大な疑問があります。 取りあえず、私の話はこの辺りにして、あとはご質問へのお答えという形で、お話ししたいと思います。 【書き起こし】ゴーン氏逮捕に疑問 郷原弁護士が会見 全文2に続く