30年間で何があった?英仏海峡の高速鉄道「ユーロスター」の軌跡 航空機を圧倒する国際列車、環境問題も追い風
ドーバー海峡をくぐる英仏海峡トンネル(ユーロトンネル)を経由してイギリスと欧州大陸を結ぶ高速列車「ユーロスター」が11月14日、1994年の運行開始から30周年を迎えた。 【写真と表で振り返る】30年間で何があった?英仏海峡トンネルの開通式典、1990年代のユーロスター発着駅や車内の様子、そして国際列車「タリス」と統合した現在の姿 ユーロスターはロンドンとパリ、ブリュッセル、アムステルダムといった西欧諸国の首都を結ぶ移動手段としてすっかり浸透し、欧州の代表的な国際列車ブランドとしての地位を確立した。さらに近年は、地球温暖化防止に寄与する環境にやさしい乗り物としても重要視されるようになっている。30年の歴史を追ってみたい。
■「ナポレオン時代からの夢」海峡トンネル ユーロスターと切っても切れない縁にあるのが英仏海峡トンネルだ。このトンネルは、ナポレオンが「ドーバー海峡の両岸をつなぎたい」という夢を抱いた19世紀から延々と続いてきた構想が20世紀末になってようやく実を結んだものだ。1986年、英仏両政府は正式にトンネル建設に合意。こうした計画に合わせて、英仏間を結ぶ高速鉄道の構想も同時に動き出した。 【写真と表で振り返る】英仏海峡トンネルの開通式典、1990年代のユーロスター発着駅や車内の様子、そして国際列車「タリス」と統合した現在の姿
1994年5月6日、英仏海峡トンネルが開通。その約半年後、ユーロスターはトンネルを経由してイギリスと欧州大陸を結ぶ国際高速鉄道サービスとして運行を始めた。 ユーロスターは運行開始当初、ロンドンのターミナル駅の1つ、テムズ川南岸に位置するウォータールー駅とパリ、ブリュッセルをそれぞれ結ぶ形で始まった。ウォータールー駅にはユーロスター用の「インターナショナル駅」が新たに整備された。車両はフランスのTGVをベースに開発したGEC-アルストム(現・アルストム)製の「TMST」を導入した。
しかし、開業当初はイギリス側には高速鉄道線がなく在来線経由、しかも地下鉄のような第三軌条集電方式で、運行速度も低かった。ロンドンの中心街に乗り入れられなかったのも「欧州からの直通列車にテムズ川を越えさせるのはいかがなものか?」という理由からだ、などとまことしやかに言われていたものだ。 当初、年間の利用者数は約300万人(1995年)に過ぎなかったが、年々増加を続け2019年には約1100万人に到達。コロナ禍で一時は壊滅的なダメージを受けたものの、2022年には約830万人まで回復している。