令和のセンバツ応援はクラウドファンディングで 3分の1超が利用
母校の甲子園出場が決まると、自宅に「寄付のお願い」が書面で届く――。そんな「風物詩」が変わりつつある。取り入れる学校が多いのがインターネット上の「クラウドファンディング(CF)」で寄付を募る手法だ。だが、目的はお金だけにとどまらない。開催中の第96回選抜高校野球大会で、令和の応援のカタチを探った。 【写真特集】クラファン 各校が工夫をこらしている ◇ファン掘り起こし、応援の裾野拡大へ 甲子園大会ではベンチ入り選手と監督、責任教師は主催者から旅費、宿泊費が補助されるが、応援に向かう生徒らの移動や宿泊の費用が課題となる。 今春のセンバツでは出場32校のうち、少なくとも3分の1以上がCFを活用する。阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)から離れた東北や関東の学校が多く、返礼品は出場記念冊子や記念グッズが目立つ。 伝統校の北海(北海道)は昨夏の甲子園大会で初めてCFを実施し、今春のセンバツでも活用している。開幕前日の17日までに約23万円が集まった。金村周一事務長によると、狙いの一つが応援の裾野を広げることだ。 従来は住所や連絡先が分かる卒業生に寄付をお願いしていたが、「卒業生ではないが北海を応援したい」と考えるファンまで広げることができなかった。卒業した期の代表者を直接訪問して支援を依頼するケースもあったが、新型コロナウイルス禍もあり、地域や関係性を問わず、ネット上で手軽に完結できるCFも始めることにした。 近年、甲子園大会出場に際して集まるお金の総額に大きな変化はないが、寄付をしてくれる人数は減少傾向という。金村事務長は「理想としては、10万円を1000人から集めるより、1万円を1万人からの方がいい。それだけ多くの人から北海が応援され、関心を持ってもらえているということなので」と語る。 北海道から甲子園までは飛行機移動が欠かせず、費用負担は大きい。金村事務長によると、準優勝した2016年夏は甲子園で5試合を戦い、控え部員やブラスバンドの移動や宿泊などで計約6000万円かかった。甲子園から離れても安価な宿泊先を探す工夫をしているが、近年の物価高騰の影響で費用を抑えるのは容易ではないという。 ◇陸上部員が提案、学習機会にも 健大高崎(群馬)は昨春のセンバツで初めてCFを実施し、2年連続出場となる今大会でも「甲子園応援充実プロジェクトⅡ」としてCFをしている。ユニークなのは、CFを生徒の主体性や創造性などを育む一環として位置づけていることだ。 CFの活用を学校に提案したのは、陸上部員で生徒会長の米山純太朗さん。昨春のセンバツ出場時に「自分が通っている学校が甲子園に出場するのは貴重な機会。もっと応援を充実させたい。離れたところにいる健大ファンのみなさんや関係者の方々から寄付をいただければ、ウィンウィンな関係になるのではないか」と考えた。 CFで集まったお金は返礼品の費用を除き、全額が応援を充実させるために使われる。用途は米山さんら生徒有志が話し合って決め、今回は生徒がアルプススタンドでの応援のやり方を学ぶDVDや、地元のパブリックビューイング会場に掲げる横断幕の作製などに充てる方向だ。 前回は約40万円が集まり、今回も17日までにほぼ同額が集まった。地元の商店にCFを知らせるポスターの掲示をお願いしたり、認知度向上のためのイベントを開いたりした。米山さんは「まず知っていただくことが大事。そこから寄付に至るまでには難しい部分がある」と実感する。 活動では学校全体で取り組むことを目指している。担当する常見典央教諭は「生徒一人一人が自分たちが関わることで、自分の学校が良くなるということを感じることができれば」と話す。 22年夏には甲子園大会で準優勝した下関国際(山口)が長期滞在のため予定を大幅に上回る経費がかかり、CFを実施したところ約1900万円が集まった事例がある。だが、全体で見ればCFで集まる金額はまだ多くない。高校野球に欠かせない応援という文化を継続していくための模索が続く。【石川裕士、後藤佳怜】