松本まりかの覚悟「老いも介護も、いずれは自分もたどる道」
NHK大河ドラマ『どうする家康』では影のある忍びを静の芝居で魅せ、ドラマ『最高のオバハン中島ハルコ』ではアラ還名古屋マダムに振り回されるライターをコミカルに演じて絶賛された松本まりかさん。最新作として挑んだのは、人間の本能に迫った映画『湖の女たち』だ。 【写真】松本まりかさんの麗しさを連続写真で見る 『パレード』『悪人』『怒り』など数多くの小説を世に送り出してきたベストセラー作家・吉田修ーの原作を、『MOTHERマザー』『星の子』で知られる大森立嗣監督が映画化。モスクワ国際映画祭審査員特別賞ほか国内外で賞に輝いた『さよなら渓谷』以来、2人が10年ぶりにタッグを組んだヒューマン・ミステリー作品である。 福士蒼汰さん演じる刑事・圭介と、松本さん演じる介護士・佳代は、佳代が勤務する介護施設で起きた100歳の寝たきりの患者殺人事件の取り調べで出会う。佳代は容疑者のひとりだ。しかし捜査の過程で、抑圧された2人が徐々に背徳的な関係に陥っていく。そこにあるのは支配欲なのか情欲なのか、それともーー? 新しい境地を見せた本作に挑んだ松本さんへのインタビュー前編では、本作への出演を決めた理由、自身の役柄について、そして松本さんが向き合った「本能」について語っていただく。
老いも介護も、いずれは自分もたどる道
「この作品への出演を決めた理由は、大森立嗣監督の『思い』一択です。声をかけて下さり、『挑戦にはなるだろうけど、ぜひやってほしい。一緒にやるから絶対に大丈夫だ』と力強く言ってくださった、その言葉でぜひやらせていただこうと思いました。 その時点ではまだ企画書も読んでいなかったものの、どんな作品であろうと向き合いたいという気持ちがあって。大森監督とは以前一度ご一緒したことがありますが、本当にこの作品で、この難しい役で声をかけていただいたというそれ以上のものはないですし、何よりも監督の覚悟みたいなものを強く感じたんですね。それだけで『やります』という気持ちになりました。 私が演じる佳代は、介護士として働いている女性です。私にとっては介護も介護士という仕事も身近なものではなかったので、まずは座学で介護の基本原則を学ぶところから始めました。 それまで介護士という仕事に対して、大変でキツい仕事であるというイメージを持っていたのですが、学ぶうちにそれが180度変わってきて。利用者の方々をケアすることは自分が誰かにとって必要な人間だと感じられる仕事で、私はそこに大きな喜びと自身の存在意義を感じたのです。 もちろん実際に介護士として働いておられる方と比べたら、私の経験などごく浅いものになります。が、それでも本作を通して大きな気づきを得たと思っていますし、やりがいも感じられました」(松本まりかさん、以下同) 死と同じく、老いによる身体の衰えは避けられないものであり、介護とは人間の最後の時間を充実させるための仕事だ。しかし現在、日本の介護の現場には、人手不足を始めとした多くの課題がある。訪問介護の基本報酬引き下げ決定のニュースも記憶に新しい。 「佳代として介護の仕事を経験しながら、老いも介護もいずれは自分もたどる道なのだとあらためて突き付けられた思いがしましたので、そういったニュースは非常に残念に感じました」