知らないと大損…! 親の財産を知っておくことが「これだけ大事」と言える理由
相続手続きと山登りの共通点
相続手続きは「進むべきルート」と「順番」が決まっているので、「山登り」に例えることができます。 佐藤さんご一家の場合、死亡届を役所に提出し、火葬や埋葬の許可手続きを行うなど、相続山1合目となる手続きを済ませていました。 しかし、次に何をすればいいのか分からず、それ以上相続手続きを行っていなかったのです。2合目には「相続人の決定」が待っています。亡くなった方の「出生から死亡までの連続した戸籍」を役所で取得して、相続人が誰かを確定させる手続きです。これをすることによって、相続税の申告が必要かどうかの判断基準を知ることが出来ます。 実は、相続税の申告はすべての人が行う必要はありません。遺産が一定金額以上の人のみが申告すれば良く、日本人の約9割は相続税の申告が必要ないと言われています。この一定金額は「基礎控除額」と呼ばれ、遺産がこの額を超えた場合に相続税の申告が必要となるのです。この基礎控除額は、小学生でもわかる簡単な算数で計算されます。それは「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。 相続山2合目で相続人の人数を確認出来たら、その人数を上記の計算式に当てはめます。例えば、相続人が1人の場合は、3,000万円+600万円×1人で3,600万円、2人の場合は、3,000万円+600万円×2人で4,200万円。佐藤さんご一家の場合は、相続人が奥様とお子様2人で合計3人になるため基礎控除額は4,800万円となります。 そして、相続税の基礎控除額が分かった後に行うのが、相続山3合目の「遺産探し」です。亡くなったお父様の遺産を集計して、基礎控除額の4,800万円を超えるか超えないか、税務署からのお尋ねが届く前に確認が出来ていれば慌てることはなかったでしょう。 親御さんと同居している方は、どの銀行にどれだけ預金があるか、どこの生命保険に入っているかなど、事前に親御さんの財産を把握している方もいるでしょう。しかし、親御さんと離れて住んでいた方は預金通帳がどこにあるのかもわからず、一から遺産探しを始める方も少なくありません。 佐藤さんご一家の場合、子供たちは別居していたためお父様の財産を全く把握しておらず、また奥様も財産の管理をお父様に任せっきりにしていたので、どれだけ遺産があるか誰も把握していませんでした。このため、税務署から指摘されるまで、相続税の申告が必要だったことを知らなかったのです。 このような事態を回避するためには、親御さんが持っている財産について、概算でも良いので早めに把握しておくことをお勧めします。ちなみに、その時は「お父さん、いくら財産持ってるの?」と決して直球で聞かないように。「相続税がいくらかかるか知っておきたいから、どれくらい財産があるか教えて」と優しく尋ねるのが良いでしょう。
石倉 英樹(相続専門の公認会計士・税理士)