「知的障害者にいろいろ教えたら出産が増えてしまう」は間違い 赤ちゃんロボットで疑似体験するスウェーデン、意外な結果に
北欧のスウェーデンといえば、高福祉で知られる国だ。人権意識も高い。例えば日本では、知的障害のある人が子どもを持とうとしても、親や周囲から止められることが珍しくないが、スウェーデンでは赤ちゃんロボットを使って育児を疑似体験してもらった上で、自己決定を促すという。知的障害者の子育て支援に関する公的な専門機関もある。では、知的障害者もどんどん子どもを産んでいるのかというと、それはちょっと違うようだ。現地の専門家に話を聞くと、驚くことばかりだった。(共同通信=市川亨) ▽育児の大変さを知ってもらう 本物の赤ちゃんのように泣き声を出し、おむつ交換や授乳などの行動を無線通信で記録する。スウェーデンで「ベビーシミュレーター」と呼ばれる米国製の赤ちゃんロボットだ。 泣くタイミングや利用者が取るべき行動を事前に設定。数日間使ってもらい、適切に世話ができたかどうかコンピューターが評価する。育児を前もって練習できるため、スウェーデンでは知的障害のある人が子どもを希望したり妊娠したりした場合、この赤ちゃんロボットを活用している。
「知的障害がある若者が『子どもが欲しい』と言うことはよくある。でも、これで疑似体験すると『こんなに大変だと思わなかった』と現実的に考えるようになる」 同国南部ウプサラにある「子育て連携・開発・情報センター」。臨床心理士のリディア・スプリンガーさんはそう説明する。 センターは、知的障害者らの子育てについて専門職への研修や情報提供、支援手法の開発を担う公的な専門機関。日本にはない組織だ。2005年に事業を始め、現在は地元自治体の公費で運営されている。 職員は5人だが、全国で専門職の連携を後押し。福祉職や助産師、保育士、教師など多職種でつくるグループが国内約60カ所にできているという。 ▽「寝た子を起こすな」論は間違い 子どもができると自分の生活がどう変わるのか学べる「ツールキット」という教材も使う。(1)時間(2)お金(3)家族関係(4)住まい(5)技能―の五つの観点から、子どもを持つと必要になる事柄や、生活の変化を具体的に学ぶ。知的障害のある親が子育ての体験談を語る動画も提供している。