「知的障害者にいろいろ教えたら出産が増えてしまう」は間違い 赤ちゃんロボットで疑似体験するスウェーデン、意外な結果に
「『いろいろ教えると、どんどん子どもをつくってしまうのではないか』という『寝た子を起こすな』論もあるが、実際は逆」とスプリンガーさん。 一部の特別支援学校では高校生にベビーシミュレーターを使った授業をしており、ある高校では生徒の予期せぬ妊娠が大幅に減ったという。 「実際の育児がどういうものか知ることで、多くの場合『今は子どもを持つのはやめておく』という選択をする。この『待つ』時間が重要なんです。良い親になるには、いろいろなことが求められるわけだから」。スプリンガーさんはそう話す。 知的障害の母親に育てられた子どもの愛着形成についてセンターとウプサラ大の研究者が調べたところ、知的障害それ自体が愛着形成に悪影響を及ぼすことはないとの結果だったという。ただ、母親自身が育つ過程で虐待や不適切な養育を受けていた場合は、子どもに問題が生じる割合が高かった。 この調査研究にも加わったスプリンガーさんはこう指摘する。「知的障害そのものよりも、支援の欠如や経済状況、精神的なストレスといった環境要因の方が影響が大きい。そこに着目したサポートが必要です」
きちんと情報を与えた上での自己決定と、ニーズに合わせた早期からの適切な支援。センターはこの二つの考え方に貫かれている。 ▽知的障害者の親の不安は同じ 日本では、知的障害者が子どもを持つことに反対する親や家族も多い。共同通信が今年1~2月に実施したアンケートでは、家族らの58%が反対だった。スウェーデンではどうなのか。 「全国知的障害者協会」の政策担当者、ユディス・ティモニーさんに聞くと、「それはここでも同じ」と答えが返ってきた。「何%が反対かは分からないが、『自分が面倒を見ないといけなくなるのではないか』『自分が死んだ後はどうなるのか』という心配は、多くの親が持っている」。ティモニーさんは、ダウン症がある20代の娘の親でもある。 「一般の人は『知的障害の親に育てられた子どもにはマイナスの影響があるのではないか』という懸念を持っている。その点も日本とさほど変わらないと思う」と答えた。