NATOの東部前線を「鉄壁化」せよ──独基地からポーランドに移る米軍のエイブラムス戦車が目撃される
<米軍が欧州における戦力をNATO東端のポーランドに移す一方で、ロシアはT-90M戦車でエストニアやフィンランドを脅かしている>
ポーランドの高速道路を走行する米軍の軍用車両の車列が撮影された。NATO圏の東端に位置するポーランドに、軍の装備を移動させているのだ。 【動画】端が見えない!エイブラムスの長い車列 ポーランドの報道機関「ラジオZET」は戦車の車列の写真を掲載し、西部のルブシュ県およびヴィエルコポルスカ県の道路には軍用車両が増えているとする住民の声を伝えた。 ラジオZETによれば、米軍は、今後9月末までに、装備をドイツのマンハイムにある米軍基地から、ポーランド中央部のポヴィツに移動させる計画だという。ポヴィツには、NATOが資金を拠出して整備した、米軍の軍備保管施設「陸軍事前集積貯蔵所」(APS)がある。 ポヴィツの保管施設は空港に隣接しており、空路による迅速な装備移送が可能なほか、必要であれば弾薬も運ぶことができると、ラジオZETは報じている。この拠点には、最終的に戦車87両、歩兵戦闘車(IFV)150両以上、自走式榴弾砲18基が配備される予定だ。 アメリカ陸軍は6月に、「M1エイブラムス」主力戦車14両と「M88」走行回収車1両がこの拠点に到着したと明らかにしていた。この拠点は、ポーランドとウクライナの国境から約約400キロ西に位置している。 ■東部前線へたった数日 退役米陸軍大佐のレイ・ボイチックは6月の時点で本誌の取材に対し、ゆくゆくはこの施設には機甲旅団1個分に相当するフル装備が配備されるとの見方を示していた。ロシアに強いメッセージを送る動きだ。何しろこの施設の軍事装備は、数日で前線に配備できる。船で1カ月も待つ必要はない。 「同盟国と共同でNATOの東部前線を『鉄壁化』する取り組みの上で、このことが持つ意味は大きい。負担も分担し、抑止と防衛協力の好例だ」。現在は米シンクタンク・欧州政策分析センター(CEPA)の上席研究員を務めるボイチックはそう指摘した。 「2014年以降、我々はこの東部前線でアメリカ軍の力を誇示する取り組みを行なってきたが、その内容は限定的だった。もっと多くの手を打たなければならない」とボイチックは述べた。 「さもなければ、『失敗した』抑止が続くだろう。ロシアのクリミア併合という2014年のような事態がまた起きれば、次に待っているのは、2022年の再現だ」とボイチックは述べた。2022年とは、ウクライナへの本格侵攻だ。 NATO東端に位置するポーランドでの軍備増強は、ウクライナ侵攻をめぐってロシアとの緊張が高まる中で行われた。 一方、親ウクライナのパルチザン組織「アテシュ」は、ロシア軍の高機能戦車「T-90Mプラルィヴ」10両からなる車列が、サンクトペテルブルク近郊で目撃されたと報告している。これは、ロシアの軍事訓練施設があるレニングラード州セルトロヴォから移送されてきたものだという。 北欧のニュースサイト「ダーゲンス」は7月30日、これらの軍事車両が目撃された場所に大きな意味があると報じた。この場所は、ウクライナの前線からは800キロ以上離れているが、ロシアに最も近いNATO加盟国であるエストニアおよびフィンランドの国境からは約160キロ以内にあるからだ。
ブレンダン・コール