AIを活用したビートルズの新作、グラミー賞の候補に
ビートルズの「Now and Then(邦題:ナウ・アンド・ゼン)」は、人工知能(AI)の力を借りた楽曲として初めてグラミー賞にノミネートされ、歴史を作った。ビートルズ解散からおよそ50年たった2023年11月にリリースされたこの楽曲には、故ジョン・レノンがピアノを弾いて歌う未発表だった音源が収録されている。レノンの妻オノ・ヨーコは、ジョンの死後にこの音源をビートルズの他のメンバーと共有した。 高度な機械学習ソフトウェアを使用することで、エンジニアらはピアノの演奏からレノンの声を分離することができた。ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、そして故ジョージ・ハリスンは、長年にわたってこの曲に取り組み、最終的に各自のパートを追加し、4人のバンドメンバー全員をフィーチャーしたビートルズの新曲を作り上げた。 Now and Thenは制作にAIが使われたものの、「人間のクリエイターのみが対象」で「AI素材の要素」を含む作品を一部のカテゴリーで認めるとするグラミー賞のガイドラインに沿っている。 音楽業界は、AIの適切な使用法や、それが音楽制作における創造性や真実性にどのような影響を与えるかを見極めようとしている。今回のノミネーションは、AIを活用した楽曲が、アーティストの功績を称えると同時に、革新と創造的表現の新たな道を開くことができることを示している。音楽業界ではAIの利用がますます増えている。一方、誰もが賛成しているわけではない。 ビートルズによるAIの利用方法は、レノンの声を偽るのではなく、単にレコーディングをクリーンアップするだけなので、多くのファンにとって受け入れやすいものだろう。より物議を醸したのは、Ghostwriterというアーティストが2023年に制作した楽曲「Heart On My Sleeve」だ。これは、AIを使ってドレイクとザ・ウィークエンドの声を本人に無断で模倣したもの。この楽曲はグラミー賞の2部門に提出されたが、最終的に対象外と判断された。 Now and Thenのために制作された12分の短編映画では、1994年にマッカートニー、スター、ハリスンが再結集してこの曲に取り組む様子が描かれている。しかし、2001年にハリスンが亡くなってから2022年まで、この曲に再び手が加えられることはほぼなかった。 その頃、映画監督のピーター・ジャクソン氏とそのチームは、ビートルズのドキュメンタリーシリーズ「ゲット・バック」の制作中に、レノンのボーカルを録音から分離する方法を開発した。最終的に、マッカートニーはベースを録音し、スターはドラムを追加し、ハリスンの以前に録音されたギターパートをミックスし、最終的にストリングスが追加された。 「僕らはみんな演奏に参加したから、これは正真正銘のビートルズのレコーディングだ」と、マッカートニーはこの短編ドキュメンタリーで語っている。 レノンの息子ショーンは、この映画の中で、父親の声が新しいビートルズの曲の一部となるプロセスに深く感動したと語っている。 「父はレコーディング技術の実験に積極的だったから、きっと喜んでいるだろう」とショーンは語った。「とても素晴らしいことだ」 また、「これは父とポール、ジョージ、リンゴが一緒に演奏する最後の曲になるだろう」とした。 「Now and Then」はグラミー賞の最優秀レコード賞にノミネートされており、ビリー・アイリッシュ、ビヨンセ、テイラー・スウィフト、チャーリーXCXらと競っている。また、最優秀ロックパフォーマンス賞にもノミネートされており、こちらではグリーン・デイやパール・ジャムらと競う。 この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。