【山脇明子のLA通信】厳しい環境の中で充実の日々を送る河村勇輝…「常に100%の準備をしています」
NBAシーズンが始まって2カ月が経とうとしている12月16日(現地時間15日)、メンフィス・グリズリーズと2way契約を結ぶ河村勇輝が、敵地でのロサンゼルス・レイカーズ戦でクリプト・ドットコム・アリーナを訪れた。ただ、開始2時間半前ぐらいから順番に始まるシュート練習には現れず、アリーナ入りする最後のグループの一人として姿を見せた。NBAでは、遠征チームのアリーナ入りする時間が分かれていることがあり、大体最初のグループは、早い時間からシュート練習する若手や故障から復帰間近の選手。そしてレギュラーの選手たちがアリーナ入りし、最後に欠場が決まっている選手らがやってくる。 「グリズリーズではアクティブ(出場選手登録)になるか、ならないかというのは、どの試合でも大体2時間、3時間、4時間前とかにわかるので、今回もそのような形でアクティブじゃないと伝えられました」と、河村は淡々と語った。 逆に11月にロサンゼルスでレイカーズと対戦したときは、ベンチ入りも出場機会がなかった試合後に「『次はハッスル。明日は、チームとは別でメンフィスの方に帰ってほしい』と伝えられて、別行動で帰りました」と、次戦のウォリアーズ戦に向けてサンフランシスコに移動したチームと離れて同じ2way契約のコリン・キャッスルトンとともにメンフィスに戻り、グリズリーズがウォリアーズと対戦した日、河村はメンフィス・ハッスルのスターティング・ポイントガードとして、オクラホマシティー・ブルー戦でGリーグデビューを果たした。グリズリーズと移動する時はチャーター機だが、Gリーグでは民間の旅客機。しかもロサンゼルスからメンフィスへの直行便は非常に限られた本数しかないため、乗り換え移動を余儀なくされた。 「その時はコリンもいたので、2人で一緒に仲良く帰りました(笑)」と笑顔を見せた河村。「チームの状況とか、試合が終わってから他の選手がどういうコンディションなのかというのでも(自らの次の居場所が)変わってくるので、流動的ではあるなとは思います」と2way契約としての自らの状況について語った。 今回のレイカーズ戦までグリズリーズが消化した27試合中、23試合にベンチ入りした河村は、前述のようにチャーター機で移動し、5つ星の高級ホテルに滞在するNBAであっても、チームがボストンとワシントンDCで連戦を行い、そのままメンフィスに朝方に帰ってきたときなど、「数日、ちょっと寝られないというような時差ボケに悩んだときがありました」と言うほどの厳しさを味わい、翌日にNBAとGリーグのどちらでプレーするのかがわからない、NBAの方へ行った場合、試合でベンチ入りするかどうかが数時間前までわからない、ベンチ入りすれば、出場できるかどうかわからないという心身ともに準備が困難な中で、NBAで生き残るためのパフォーマンスを見せるという挑戦に立ち向かっている。 楽なわけがないが、「グリズリーズであっても、ハッスルであっても、常に試合に臨むまでのプロセスというのは変えずに、常に100パーセントの準備をしたうえで、その試合に臨むことは心がけています」と河村。「試合に簡単には出られない状況ではありますけど、だからと言って、いつもの準備をしないということではありません。いつでも試合に出る準備をした選手にチャンスが巡ってくると思っているので、100パーセントの準備を常に心がけるようにしています」と意志の強さを見せる。 20日から始まるGリーグのウィンターショーケースを前に河村がハッスルでプレーしたのは5試合。すべての試合で2ケタアシスト、12月1日のバーミングハム・スクアドロン戦で15得点12アシスト9リバウンドとあわやトリプルダブルという好プレーを見せるなど、1試合平均10.8得点11.8アシスト4.0リバウンドの活躍を見せている。 「ハッスルでプレーすれば、もちろんプレイングタイムも多くもらえて、なおかつ、NBAのトップレベルではないにしろ、大きな選手や速くて、強い選手がいっぱいいるので。Gリーグで結果を残したりとか、慣れていくということは、自分にとって成長するうえで大切な過程だと思っています」 一方グリズリーズについては、「2way選手だからとか、英語があまりしゃべれないからとか、そういうこと関係なしに常にコミュニケーションを取ってくれて、チームの輪に入れてくれる。本契約の15人だけじゃなくて、2wayも含めた18人、またスタッフも含めて全員で優勝するんだという、そのための関係性だったり関係作りだったりコミュニケーションの仕方がすごく上手い」と言うジャ・モラントからリーダーシップを学んだり、「ジャのようなボールを持ってプッシュしてクリエイトしていくというような役割をハッスルでは僕がしないといけない。そういったポイントガードの選手のプレーの仕方を見たりして学んだりしてます」と、習得のチャンスを一瞬たりとも無駄にしていない。 「どちらにも良さがある。どちらの状況も今はすごく楽しめている」と言う河村。移動と試合、違うリーグの行き来と息が詰まりそうな日々の中でも、自身の時間は取れているそうで、「一人暮らしをしているので、1人でいる時間がほとんどですし、移動は多いですけど、メンフィスにいるときは逆に時間も多くある。そういった意味で、1人でバスケットのことを考えたり、日本の時以上に時間があるのが、僕にとってはすごくいいことだと思っていますし、よりバスケットに集中できていると感じています」。 「NBAやGリーグでのプレーの経験を経て、アメリカのバスケットボールやアメリカの選手たちとの感覚の間合いというのは徐々に慣れてきていると思っています」と充実感を漂わせる。 余談だが、キャッスルトンとロサンゼルスからメンフィスに戻る途中には、「メンフィスのファンです」とファンから声をかけられて、一緒に写真を撮ったりもしたそうだ。また、これらを話したレイカーズ戦前の囲み会見で、日本人メディアに囲まれる河村を見て、モラントが「ユウキ! ユウキ!」と応援の声をかけるように通り過ぎていくなど、チームでは兄のような存在のモラントとの良好な関係が伺えた。 ワシントンDCでのウィザーズ戦では、“We want Yuki!”の合唱が起こり、ポートランドでのトレイルブレイザーズ戦のときと同様、敵地のファンから歓声を受けた。 2way契約の厳しさよりも、プラス面をより感じ取りプレーで表現し続ける河村。彼がアメリカに慣れれば慣れるほど、アメリカで「ユウキ」に興奮するファンが、ますます増えていきそうだ。 文=山脇明子
BASKETBALL KING