日の丸メーカーの逆襲は? パリ五輪前に熾烈なシューズ競争 【WBSクロス】
パリオリンピックまで100日を切りました。かつて“日本のお家芸”と言われたマラソンでは選手だけでなくその足元でもスポーツメーカーの熾烈な闘いがあります。日本のメーカーに勝算はあるのでしょうか? 4月11日、フランス・パリでアメリカのスポーツ用品大手「ナイキ」が行った発表会。パリオリンピックで選手が使う製品が並びました。会場の目立つところにあったのが「アルファフライ3」という厚底のマラソンシューズです。靴底にはカーボンプレートを搭載。さらに前足部にスニーカーでおなじみのエアを入れることで、他のメーカーと差別化したといいます。 一体何が違うのか。 「カーボンの反発、エアのクッションによって、長い距離をいくらでも走れるような印象があります」(ロンドン支局の立花剛記者) 前回の東京オリンピック男子マラソンで10位までの選手のうち7人がナイキ製シューズを着用。トップアスリートから圧倒的な支持を受けています。この靴に絶対の自信を持つナイキ。そのCEOがテレビ東京の単独インタビューに応じました。 「ご存じのようにナイキは世界最速のシューズを作った。われわれは選手と一緒に結果を出すことで世界中の消費者と繋がっていく」(ナイキのジョン・ドナホーCEO)
ナイキを追うアシックス
今回のオリンピックで反転攻勢をかける日本メーカーがあります。2023年12月、スペイン・セビリアに集まっていたのは、ヨーロッパやアフリカのトップランナー。履いているのは、アシックスのマラソンシューズ「メタスピード パリ」です。 かつて薄底シューズで世界を制したアシックス。パリに向けて、世界中のトップアスリートから膨大な足のデータを集めて新型の厚底シューズを開発したのです。 今回トップアスリートに集まってもらったのには、別の目的もありました。 「3!3!」 何やら数字を叫んでいました。 「本人の感じる疲労度を数字で表している」(アシックスの竹村周平さん) 実はアシックスは、選手が感じる疲れを数値化しようとしていました。 例えば「0」は「全く疲れていない」、「7」は「とてもつらい」といったように数字で申告。走る前後で疲れの原因となる血液の値も測定します。そうすることで、客観的な数値と疲れという主観をトータルで分析。靴だけでなく、レースの戦略面からも選手をサポートするのが狙いです。 参加した選手は「選手にとってさまざまな気づきが得られる」「他のスポーツメーカーでこのような取り組みはないと思う」と話します。 スペインにはアシックスの廣田康人会長も駆けつけていました。 「アシックス陣営に来れば、もっと科学的に速くなれる。われわれの差別化にもなるし、競争力にもなる」(廣田会長) アシックスの売り上げの8割が海外。また、最近ではアメリカのランニングアプリを運営する会社やフランスのマラソン大会登録サイトなどを次々と買収しています。靴に加えて、ランニング全般に関わる事業を通じてシェア拡大を目指す考えです。 「ナイキに厚底でやられてしまった。まだまだ追い付いていない。5合目に行っているかどうか」(廣田会長) 一方のナイキ。今年4月のオリンピック向けの発表会で、あえて大きく打ち出したのが一般ランナー向けのシューズ。靴底全体にエアーが入っているのが特徴です。 「世界最速のマラソンシューズと同じ技術革新を一般向けにも応用できた」(ナイキのジョン・ドナホーCEO) 今後はAIも活用して製品作りをするというナイキ。選手からの意見をより早く反映できるといいます。 「ナイキは決して他人の真似をしない。もっと大胆で破壊的で革新的でいたい」(ジョン・ドナホーCEO) 約7.5兆円ともいわれる世界のランニングシューズ市場。健康志向の高まりで、今後も毎年数%の成長が続くと見込まれています。4年に一度の晴れの舞台、その裏で繰り広げられる戦いもますます激しくなっています。 ※ワールドビジネスサテライト