憂鬱な梅雨も読めば気分も晴れやかに 呼び名や気配の情緒感じる「雨辞典」「雨小説」 書店バックヤードから
佐々木 雨の写真集って、結構たくさんあるんですよ。
藤井 青梅雨(あおつゆ)や白雨(はくう)の写真は色を感じ取れます。こうして名前を知ると、雨が降るのも少し楽しみになりますね。時に災害にもなりますが…。
百々 日本人は、雨を恵みをもたらすものとしても、恐ろしいものとしても付き合ってきたから、雨の言葉が多いんでしょうね。雨だけで本が一冊作れるのがすごい。
■心のほとんどは水分です
藤井 では、雨の物語にまいりましょう。大橋さんの一冊は児童書ですね。
大橋 『雨ふる本屋』(日向理恵子作、吉田尚令絵/童心社)。お使い帰りの主人公がカタツムリに誘われて、雨の降っている不思議な本屋にたどり着く。そこでは、完成しないまま忘れられたお話に雨をかけることで、本ができあがっていく。それを知った主人公の冒険が始まります。
藤井 本に雨をかけるという現実ではやってはいけない設定なのに、不思議な説得力がありますね。
大橋 すごいおしゃれですよね。学校の図書室によく置いてあるので、子供たちが読んだら、本を好きになってくれるんじゃないかな。
藤井 体と同じく心もほとんど水分でできている、という表現が印象的です。
百々 言われてみれば納得やな。波紋が広がるとか、容量とか、あふれるとか言うもんな。
■お仕事の日は、いつも…
大橋 もう一冊は『死神の精度』(伊坂幸太郎著/文春文庫)。死神が指定された人間を1週間調査して、その生死を決める。主人公の死神が仕事をするときは、いつも雨が降っている。映画化したとき、主演の金城武さんが傘を持って立っているポスターが印象的でした。調査する人間6人分の6つの短編集。一話ずつで完結していてそれぞれ面白いんですが、最後につながる話もあって、なるほどな!ってなります。
■湿度に感じる不穏な気配
百々 僕のもう一冊は『梅雨物語』(貴志祐介著/KADOKAWA)。3編のホラーミステリーで、どれも雨のシーンから始まります。1話目の「皐月(さつき)闇」は、自ら命を絶った青年が残した13の俳句に隠された意味を、元教師の俳人が読み解いていく。ミステリーの難易度はそんなに高くなくて、「読めた」と思わせられるんですが、これは筆者のわな。油断したところで、最後に恐ろしい真実にたどり着く。