「そんなことまで頼んでない」闇に葬られた山一証券もう一つの「報告書」 朝日新聞の記事で「情報リーク」を疑われた“マチベン”弁護士が真相を語るー平成事件史(19)戦後最大の経営破たん【インタビュー】
========== 報告書には記載されていないが、東京地検特捜部の調べなどによると、その中国系の銀行というのは中国銀行、「BOC(バンクオブチャイナ)」であることがわかった。 実は山一証券の「簿外債務」のうちの約半分、「1,000億円」以上が、「バーレーン」や「アムステルダム」などを経由して、「BOC」に沈んでいたのである。同社は中国最大の商業銀行で、世界各地に拠点をもって、華僑マネーと中国をつなぐ金融センターの中心だった。 仮に「会社更生法」が適用されて、債券債務が「凍結」されていたら、「BOC」は「1,000億円」以上の損失を抱える可能性があったのだ。 もし「BOC」が破たんした場合、海外の金融市場への影響は大きく、国際的なデフォルトに発展する恐れもあった。 当時の検察幹部は「BOCの簿外債務は現地法人の『山一オーストラリア』を経由した取引だった。大蔵省は、金融危機の国際的な連鎖反応を食い止めるため、『国際金融秩序』を維持することを最優先した」と振り返った。 ========== ■「何しろ時間がかかった」一つの間違いも許されなかった報告書 ーー国広さんは、どんな思いで「調査報告書」に取り組んでいらっしゃったのでしょうか。また山一証券社内では、どういう受け止められ方をされていたのでしょうか。 国広弁護士: 経営破たんした企業について経緯を調べて、「調査報告書」を公表した例は、過去にありませんでした。そのため、前例に縛られることなく、書くべきだと思ったことを制約なしに書けたのが、よかったんじゃないでしょうか。 誰もこんな詳細な報告書を出すとは想像していなかったと思います。当時は、『第三者委員会』という言葉さえない時代です。私としても誰にも忖度する必要のない「1回限りの勝負」と思っていましたので、怖いもの知らずでした。 まわりは「大蔵省のことを書いたら大変な目に遭う」みたいに心配していましたが、気にしませんでした。
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