「そんなことまで頼んでない」闇に葬られた山一証券もう一つの「報告書」 朝日新聞の記事で「情報リーク」を疑われた“マチベン”弁護士が真相を語るー平成事件史(19)戦後最大の経営破たん【インタビュー】
しかし、報告書でいきなり「飛ばし」「簿外債務」と書いても普通の人にはわからない。そこで、社員の人に「私が理解できなければ、読む人に分かるような.報告書は書けないので、私のような素人でも理解できるよう、かみ砕いて教えてください」と開き直り、とことんまで説明を聞きました。 その結果、非常に複雑な取引スキームをビジュアルで分かりやすい「飛ばしマップ」に落とし込みました。その上で、一般の人が理解できるように表現を工夫していきました。 金融の知識がない素人にも読んでほしかったんです。破たんに至った事実、全体像を誰が読んでも理解できる記録として残したいと思いました。 「にぎり」とか「飛ばし」とは何かという業界用語の解説と、背景事情にページを割いて、冒頭にもってきたのは、そういう思いなんです。 ーー山一証券の直前に経営破たんした「三洋証券」は法的整理の「会社更生法」が認められました。山一についても名前を残して従業員も解雇しない「法的整理で再建をめざす」という選択肢はなかったのでしょうか。 国広弁護士: 当時の「会社更生法」などの法律は、「国際金融情勢」にも大きな影響を与えかねない山一の経営破たんのような大規模事案に適用することは困難だったと思います。 そもそも、裁判所としては「飛ばし」「簿外債務」という「粉飾決算」につながる犯罪に対して、法的整理はできないという判断だったと思います。また、山一が海外に「簿外債務」を飛ばしていたことが大きかったと思います。 海外に飛ばしていた損失の多くは、最終的に中国系の銀行が受け皿になっており、当時はタイのバーツ切り下げを発端にした「アジア金融危機」の時期でした。そんな状況で、山一を「法的整理」にすると、その中国系の銀行に大きな打撃を与え、「アジア金融危機」の火に油を注ぐことにもなりかねない状況でした。 これを回避するためには、大蔵省としては、山一に「自主的に」全部買い戻させるしかなかった。そのために「自主廃業」という形をとったのかもしれません。
【関連記事】
- 「大蔵省の責任を書かないという選択肢はなかった」山一証券社長は大蔵省から含み損の「飛ばし」を示唆された…“ミンボー専門”の42歳の弁護士が「調査報告書」に込めた思いとはー平成事件史(18)戦後最大の経営破たん
- 「山一証券破たんの調査をやってくれませんか」なぜ“ミンボー専門”のマチベンだった42歳の弁護士が、前例のない調査を引き受けたのか 今だから明かせる「報告書」をめぐる舞台裏ー平成事件史(17)戦後最大の経営破たん
- 「もう一度、東京地検特捜部で仕事がしたかった」がん闘病の妻を見舞うため病院に通う特捜検事 「ヤメ検」若狭勝弁護士の知られざる日々ー平成事件史 戦後最大の総会屋事件(16)
- なぜ警視庁幹部はワイロを受け取っていたのか、見返りは・・・小池隆一事件の「ブツ読み」から浮上した前代未聞の警官汚職ー平成事件史 戦後最大の総会屋事件(15)
- なぜ警視庁幹部はワイロを受け取っていたのか、見返りは・・・小池隆一事件の「ブツ読み」から浮上した前代未聞の警官汚職ー平成事件史 戦後最大の総会屋事件(15)