【インタビュー】ニコンのカメラが高評価な理由。出色のミドル機「Z6III」や人気機種「Z50II」が市場創造を牽引
DGPイメージングアワード2024 受賞インタビュー:ニコンイメージングジャパン 最高パフォーマンスのミドルクラスをコンセプトに開発されたニコン「Z6III」が、DGPイメージングアワード「総合金賞」に輝いた。審査委員特別賞はレンズの世界観をリーズナブルな価格で手にできる「NIKKOR Z 50mm f/1.4」が満場一致の高評価で獲得。12月には話題を集める新製品「Z50II」も市場に送り込んだニコンが、市場の活性化と写真文化の発展を牽引する。 【画像】総合金賞に輝いたニコン「Z6III」 株式会社ニコンイメージングジャパン 取締役兼執行役員 マーケティング本部長の辻 卓英氏に話を聞いた。 ■「Z6III」が栄えある総合金賞を獲得。高性能EVFは技術/企画賞も ―― 「DGPイメージングアワード2024」において、御社のミラーレスカメラ「Z6III」が総合金賞と技術/企画賞を、大口径標準単焦点レンズ「NIKKOR Z 50mm f/1.4」が審査委員特別賞を受賞されました。おめでとうございます。 辻 誠にありがとうございます。総合金賞と技術/企画賞をいただいた「Z6III」は、上位モデル「Z9」「Z8」と同じ画像処理エンジン「EXPEED 7」を搭載するなど、お客様からご好評いただいている上位機に搭載する各要素を継承しながら、より取り回しに優れた最高パフォーマンスのミドルクラスをコンセプトに開発されました。静止画に動画、趣味から仕事までと幅広いお客様に使用されることを想定しています。 世界初となる部分積層型CMOSセンサー、ニコンのミラーレス史上では最高と言える高性能EVFなど、上位機種の特長を継承しつつプラスアルファの技術進化を織り込んでいます。特に「Z9」をも上回る明るさ、解像度、広色域を実現したEVFに対し、技術/企画賞を受賞できたことは本当にうれしいですね。 お客様からは「高感度でもノイズが非常に少ない」「AFの精度の高さに驚かされた」といった声をいただき、パフォーマンスの高いカメラとしてご評価をいただいております。 ―― 幅広い層や用途を想定されていらっしゃるということですが。 辻 製品登録データの分析から、「Z8」「Zf」との比較では、若年層の購入比率や1台目のカメラとして初めて購入した方も多くみられます。 街並みなどのスナップ、イルミネーションなどの都市風景、山などの自然風景、ポートレートなど、幅広い被写体の撮影でご活用いただいていることが調査で確認できており、今後もジャンルを問わず、多くの方にZ6IIIのパフォーマンスをご自身のフィールドで実感していただけることを期待しています。 ■絞りで様々な描写が楽しめる魅力的な一本「NIKKOR Z 50mm f/1.4」 ―― 「NIKKOR Z 50mm f/1.4」は、レンズを通して見ることで、世界ってこんなに美しいんだということをしっかりと味わうことができる、そしてそれを大変リーズナブルな価格で実現していることが審査会で評価され、満場一致で審査委員特別賞に選出されました。 辻 明るい開放F値の大きなボケによる表現を、普段使いできる持ち運びやすさやお手頃な価格とともに、多くの方に気軽に楽しんでいただけることをコンセプトとして開発を行いました。 絞りで描写がかなり変わりますので、様々な写りの表現を楽しむことができます。開放で撮ると非常に軟らかい描写が得られ、「Fマウントの時代のレンズの描写を思い出す」といった声もお聞きしますし、また、逆光でも楽しむことができます。絞ればZレンズらしいカリッとしたいつものシャープな仕上がりになります。「非常に面白いレンズ」「魅力的な一本」とご評価をいただいています。 ―― レンズの価格も値上がりが相次ぐなか、審査会では手頃な価格を実現していることへの評価も大変高く、「これならお客様に安心してお薦めできる」との声が上がりました。 辻 実はZマウントレンズでは50㎜の焦点距離のレンズはこれで4本目になります。「どれだけ50㎜が好きなんだ」という声も聞こえてきそうですが(笑)、50mmはやはり大切な焦点距離。Fレンズを想わせるような軟らかい写りのあるこのF1.4は、50mmの選択肢を増やした意味からもいい企画であったと確信しています。 ―― 4本ともすべて購入して、違いを撮り比べて楽しまれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。 辻 50mmのファンだという方も結構いらっしゃって、ポートレートを撮影されるとあるプロカメラマンも4本すべて購入され、「それぞれに違いがあり、使い道も異なり、使い勝手にも優れている。でも、4本目なんですよね」とニコニコしながらおっしゃられていました。 ■好調な市場はインバウンド効果大。若年層の掘り起こしに注力 ―― 店頭も活気を取り戻し、CIPA(一般社団法人カメラ映像機器工業会)による統計(10月まで)では、国内市場はカメラ、交換レンズそれぞれ、台数・数量ベースともにほぼ2桁増と好調な推移を見せています。内容をどのように分析されていらっしゃいますか。 辻 ワールドワイドで見てもカメラ需要は旺盛で、引き続き維持していくと見ています。国内に目を向けると、好調の一番の要因は円安です。新型コロナによる落ち込みからも回復し、インバウンド需要が非常に高まり、販売店の皆様からも、理美容や白物だけでなく、イメージングも非常に高い需要があると聞いています。特に20万円以下のAPS-Cカメラの需要が活発なようです。 一方でニコンにおいては、Z8やZfの好調な販売や新製品Z6IIIの投入によって、交換レンズも含め販売増に繋がっています。 ―― 業界では大事なテーマのひとつとして、若年層を中心とした新規需要の掘り起こしが指摘されていますが、御社でもいろいろな取り組みを展開されています。 辻 若年層やこれからカメラを始めたいお客様に向けたいろいろな施策を行っており、ここでは3つ紹介させていただきます。 一つ目は、フォトライフスタイルWEBマガジン「NICO STOP」(ニコストップ)です。写真がもたらす豊かさをテーマに情報を発信していますが、その中で、若い女性に人気がある俳優集団「劇団EXILE」と、写真の学びサイトなどを運営する「株式会社CURBON」との三者で協業した写真展「また今日が過ぎても」を9月に開催しました。 劇団EXILEに所属する佐藤寛太さん、塩野瑛久さんが写真を趣味にされていて、お二人にZfをお貸しして、メンバーを撮り下ろしてもらった作品を展示しました。多数の媒体で取り上げられ、多くの若年層や女性層が来場され、これまでニコンとは接点の少なかった新規のお客様に対して写真の魅力を認知、拡大することができました。 二つ目は、10月にリニューアルした写真教室「ニコン カレッジ」です。SNSで活躍している7名のクリエイターとフォトグラファーを新たに講師として迎え、講義内容も見直し、若い世代やカメラ初心者の方が気軽に参加してもらえるようにしました。 新設した「1日体験クラス」は、若年層が参加しやすい土日開催で3時間1回で完結するワークショップ形式の講座となります。ニコンプラザで開催している無料のワークショップ、「FirstSTEPS」(ファーストステップス)で若い方から人気の講師の方にニコン カレッジでも教えていただいており、若い人が受講していただける新たな流れを提案しました。 三つ目は、中高生を対象とした写真部応援マガジン「TopEye」(トップアイ)です。これまでは冊子で配布していましたが、より多くの方に閲覧してもらうためにWEBに切り替えました。年4回開催される「TopEyeフォトコンテスト」、写真部の部活の時間に写真家がオンラインで作品講評会を行う「部活におじゃまします」といった企画を行っています。 また、カメラの備品が不足している写真部さんに半年間にわたり備品の貸し出しを行うなど、中高生の写真部活動をサポートする取り組みに力を入れています。 ■予約が殺到した「Z50II」。発売後のマーケティングが肝 ―― 今回のアワードには間に合いませんでしたが、若年層やこれからカメラを始めたいお客様にとって注目の新製品となる「Z50II」が12月3日に発売されました。 辻 カメラ初心者の方をターゲットに、自分らしい表現が簡単にできることをコンセプトにしたエントリーモデルです。カメラを購入しても、すぐに使わなくなってしまうのではないかと心配されている方に対しても、安心して長く使える高性能のカメラであることをアピールしていきます。 ―― 気になる価格は、ニコンダイレクトでボディ単体が15万円を切り税込145,200円、ダブルズームキットが20万円を切り税込198,000円(12月5日現在)です。 辻 多くの方に手に取っていただけるように頑張りました。「この機能・性能でこの価格は安い」との声を皆さんからいただいています。また、国内で販売するモデルは日本語のみの対応とさせていただきました。 ―― 海外旅行客が買い占め、日本で販売しながら日本のお客様の手に十分に行き届かないといった問題も指摘されており、各社で対応策に苦慮されていらっしゃいます。 辻 ニコンを長くご愛用いただいているファンの方からも高い支持をいただいていて、予約段階ではボディ単体の購入が多くなっています。初心者の方からどんなカメラを買ったらいいのかよく相談を受ける方々でもあり、「Z50IIがいいですよ」と自信をもってご紹介いただけるモデルにもなっていると思います。 カメラ初心者の方は、新製品が出たからといってすぐにご購入いただけるわけではありませんから、発売後のマーケティングこそ肝心です。若年層に向け、効果的なタイミング・適切なアプローチで新しい施策を実施していくことで、今後はダブルズームの比率も高まってくると思います。 店頭では「Z50II」の魅力を紹介する小冊子を用意しました。独自の色表現を持つ6名のクリエイターのイメージングレシピを、購入者はダウンロードしてすぐ使っていただけます。 ■「Nikon Creators 応援オータムキャンペーン」を2025年1月14日まで開催 ―― 2024年2月に開催された「CP+2024」は入場者数が久々に伸長しました。カメラや写真に接する場として、2025年2月27日から開催される「CP+2025」に大きな期待が寄せられています。 辻 「CP+2024」でニコンは、若年層やカメラ初心者層にも立ち寄りたいと思っていただけるブースづくりを目指し、会場での肌感や実際のデータからも、実際に数多くの若年層の来場者に足を運び楽しんでいただくことができました。あれだけ多くの若い世代の方との接点はなかなか創れるものではありませんから、今後も貴重な接点となることを期待しています。 「動画」についても、やはり若い人の方の関心が高い印象があります。日頃から写真も動画もどちらも当たり前に接していて、動画に対する“壁”がないのかもしれません。Inter BEEのニコンブースにも若い方がかなりいらっしゃっていました。 来年2月に開催される「CP+2025」も、メインのニコンファンの皆様はもちろん、新規、若年層のお客様、そして、普段は他社製品をお使いのお客様にも、ニコンを試してもらえる貴重な機会として、関心を引き寄せられる仕掛けを考えていきたいと思います。 ―― 一筋縄ではいきませんが、イメージング市場のさらなる活性化へ向けて、意気込みをお聞かせください。 辻 業界を活性化させることが我々の使命です。新規や若年層に向けた施策だけではなく、購入されたお客様が撮影の楽しさを実感できる仕掛けを展開することで、買ったけど使わなかったと離脱する人を減らすことも、活性化につながると考えております。ニッコールクラブやニコンカレッジによるサポートはその一例となります。 10月からは、購入した製品を安心して購入後も長く使っていただくために、対象製品を購入し、ニコンイメージング会員と製品の登録をしていただくと、1年間のメーカー保証をもう1年延長して2年にする「保証期間1年延長サービス」を開始しています。 「Z6III」「Z50II」で対応しているイメージングレシピは、レシピを無料でダウンロードすることで、簡単に憧れのクリエイターさんの表現を自分も楽しむことができる新しい映像の楽しみ方で、こうした撮影が楽しくなる新しい提案もどんどん行っていきます。 また、静止画市場以外でも、今後拡大が見込まれる業務用動画市場の開拓を目指し、4月にニコンは米国の映像機器メーカーRED社を完全子会社化しました。先日のInterBEEでも、RED監修のN-Log用LUTを適用した機材の体験やセミナーに多くの方が立ち寄られ、REDとの今後に、期待の声が寄せられました。引き続き、動画強化にも取り組み、市場の活性化に繋げていきたいと思います。 最後に、「Nikon Creators 応援オータムキャンペーン」を2025年1月14日まで開催しています。総合金賞を受賞した「Z6III」も今回初めて4万円のキャッシュバック対象となります。いままで対象外だった一部の超望遠レンズなども新たに対象として、非常に多くボディ、レンズが普段よりお求めやすくなるキャッシュバックキャンペーンですので、是非この機会に購入をご検討いただきたいですね。 ニコンは、ハードウエアだけでなく、ソフトウエアやサービスといった観点からもわれわれの価値提供を行い、お客様の期待に応え、写真文化の発展に貢献して参ります。
編集部:竹内 純