あなたの中に潜むウイルスは、実はおかあさんの子宮を通り抜けた際に感染したってこと知ってましたか?
わたしたちはウイルスと「同居」していることをご存じだろうか。わたしたちの体の表面や内部には、じつは膨大な数のウイルスがつねに存在しているのである。 【画像】古代エジプト王のミイラに天然痘ウイルスの痕跡が! これらのウイルスはいったいどこから来たのか。 【※本記事は、宮坂昌之・定岡知彦『ウイルスはそこにいる』(4月18日発売)から抜粋・編集したものです。】
わたしたちの体内のウイルスはどこから来たのか
健康な人のからだの中にも多くのウイルスが存在する。つまり、人体には正常状態で多数のウイルスがいて、後で述べるように、その多くは生体に生理的状態で存在する細菌叢(マイクロバイオーム:microbiome)と密接な関連を持ちながら存在する。このウイルスの集合体のことをヴァイローム(virome:ウイルス叢)と呼ぶ。 2020年12月号の『サイエンティフィック・アメリカン』誌に「ウイルスはわれわれに恩恵を与えることもあれば害を及ぼすこともある」という題名で、正常人には380兆個ものウイルスからなるヴァイロームが存在することが紹介されている。 380兆個といわれてもピンとこないかもしれないが、これは体内に存在する細菌の約10倍、世界総人口の約5万倍にものぼる数だ。われわれのからだの表面や内部には、膨大な数の「同居人」がひしめき合っている。 では、そのウイルスはどこから来るのだろうか? われわれの体内には生理的に存在するヴァイローム(ウイルス叢)があるが、それはわれわれが生まれたときにはすでに存在していて、そのかなりのものは母親由来だ。一部は子どもが母親の産道を通ってくるときにもらったもの、一部は生後に飲む母親の乳汁から、また母親の唾液や肌由来のものもある。 その後、子どもの体内には、新たに空気や水、食物やほかの人に由来するウイルスも入ってくる。このためにヴァイロームの中身が次第に多様化し、子どもの成長とともにやがて安定したヴァイロームが個人個人の中でできあがる。 ヴァイロームを構成する多くのウイルスはヒトと共存し、病気を起こさない。個人レベルで見ると、すべての人が同じヴァイロームを持っているのではない。それぞれの個体内のヴァイロームには、ある程度の個人差があり、個人ごとに安定したヴァイロームが形成される傾向がある。その個人差の一部は環境によって形成されるらしく、同居している人どうしではヴァイロームが似ているが、兄弟でも非同居の場合にはお互いにかなり異なるヴァイロームを持つようになる。 また、個体の中では、ウイルスは同じものが一様に広がっているのではなく、臓器・組織ごとに特徴的なヴァイロームがみられる、たとえば、口腔内、呼吸器、消化器、生殖器、皮膚などでは、棲みついているウイルスの種類がお互いに少しずつ異なり、それぞれの臓器・組織に特徴的に存在するウイルスがある。 このように、体内には実は多種多様なウイルスが存在し、病気を起こすことなしに、いわば生理的なヴァイロームが形成されている。 * 私たちのからだは一見きれいに見えても実はウイルスまみれだった! 宮坂昌之・定岡知彦『ウイルスはそこにいる』(4月18日発売)は、免疫学者とウイルス学者がタッグを組んで生命科学最大のフロンティアを一望します!
宮坂 昌之/定岡 知彦