黒ずくめで銀座の高級時計店に押し入ったわけ…「岐阜で空き巣」からはまった犯罪の沼 「匿流」に絡み取られた20歳は、法廷で「上位者」への恐怖を語った
「報復が怖い。あだ名も言えない」。何度問われても、小柄な男は黙り込むばかりだった。2023年5月、東京・銀座の高級腕時計店に仮面をかぶった黒ずくめの男たちが押し入った。多くの貴金属を奪ったものの、通行人に撮影され、逃走後すぐ逮捕されることに。非常にずさんな犯行だった。 【写真】10代で起こした強盗殺人事件。無期懲役で服役する30代受刑者の「贖罪」とは
首都圏を中心に闇バイトに応募した若者による強盗事件が相次いでいる。闇バイトでは、運転免許証の提示などを通じて個人情報を犯人グループに知られ、自身や家族に危害を加えると脅された挙げ句、犯罪に加担するケースが目立つ。識者は「実行犯は捨て駒だ」と警鐘を鳴らす。警察庁は今年10月18日「警察は相談を受けたあなたやあなたの家族を確実に保護します。勇気を持って今すぐ引き返してください」と呼びかける動画をX(旧ツイッター)に投稿した。 男は犯行になぜ加わったのか。手配、指示、そこから実行役、逮捕へ―。銀座事件で中心的な役割を果たし、岐阜地裁で審理された男が明かした背景とは。(共同通信岐阜支局) ▽「空き巣案件」だったはずが 7月2日、岐阜地裁の法廷。肩につかない位の黒髪を一つに束ね、真っ白なシャツに身を包んだ小柄な男(20)が証言台に立った。冒頭手続きで検察官が、男が起こしたとされる強盗事件について記した起訴状を読み上げると、男は「全て間違いない」とはっきり答えた。
法廷で明らかにされた証拠や男の供述によると、当時横浜市に住んでいた男が「北斗」と名乗る人物から、匿名性の高い通信アプリ「シグナル」を使い、ある仕事の誘いを受けたのは2023年4月末ごろ。内容は「岐阜で空き巣の案件があり、実行役を手配すれば報酬を出す」というもの。「空き巣なら」と引き受けることにした。 ただ、「北斗」と連絡を取り合ううち、計画は「金庫に12億円ある」という家にガス業者を装って侵入し、住民から金品を奪う強盗に変わっていった。「強盗と聞いたあたりで、抜けたいと思った」と供述した男。しかし、暴力団関係者とにおわせていた「北斗」への恐怖から言い出せなかった。 男は結局、実行役を手配した。そこに別の人物が集めたメンバーを加えた計4人が2023年5月2日、岐阜県大垣市の70代男性宅に押し入った。インターホンを押し、男性が玄関ドアを開けた隙に強引に家の中に入り「殺すぞ」などと言って脅し、顔面や左脇腹を殴ったり蹴ったりした上、現金約2200万円が入った金庫などを運び出した。男性は隙を見て2階の屋根から飛び降り、かろうじて脱出。全治2カ月の重傷を負った。
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