移動販売で購入したパピヨン、当日に感染症判明…翌日には重い肺炎も 犬猫に強いられる過酷な環境【杉本彩さんコラム】
犬や猫などを一時的にイベント会場で販売する 「移動販売」 が以前より問題視されている。2019年の動物愛護管理法改正の時も、販売事業者の業界団体でさえ、移動販売は禁止がよいと、私たち動物愛護団体と同意見だった。それなのに、移動販売に対する規制はとても中途半端に終わり、いまだに多くの問題が報告されている。 まず移動販売とは、全国各地のイベント会場を回り、幼齢の仔犬・仔猫を販売するという業態だ。そのため、抵抗力の弱い仔犬や仔猫は、長距離の移動で体調を崩したり、健康状態が悪いまま販売されるという問題もある。 ■10時間半の長距離移動 ある会場の仔犬は痩せ、咳をしていたり、震えが止まらなかったり、ぐったり横たわっていた。下痢の上に寝ている仔犬もいたという。お尻や足などに排泄物が付いていてケージのあちこちに糞便が付着していたり、尿でケージの床一面が濡れていることもある。 仔犬・仔猫が体調を崩すほどの長距離移動とは、どれほど過酷なのか。たとえば、週末山口から約10時間半移動し本拠地に戻り、翌々日の夕方には、今度は7時間半から8時間半かけて岩手に輸送する。長距離輸送にかかるストレス要因でも幼齢の仔犬・仔猫の免疫力は低下する。しかも、餌を少量に制限され、飢えている状態でだ。その上イベント会場では、水でふやかした少量のドライフードをケージの床の新聞紙に置くだけ。仔犬は、新聞紙に水分が染み込む前にそれをもの凄い勢いで食べてしまうくらいだから、どれほど空腹であるか分かる。 ■飼ってすぐ感染症と判明 あるパピヨンの仔犬の事例も酷いものだ。購入時、動物愛護管理法の動物販売業者の責務として定められている18項目の事前説明は 「飼ったことがあるなら割愛する」 と言われたそうだ。また 「この子は健康です」 と言われたのに、ペット保険を勧められ半強制的に加入させられたという。加えて帰り際に店員から 「小さくて心配だから獣医の指示に従って」 と言われたので不安になり、その足で動物病院に行くと、寄生虫感染による感染症 「ジアルジア」 と診断された。さらに、翌日レントゲンで重い肺炎と、血液検査で低血糖と診断。購入後2日目には発熱と咳をしだし、下痢もしたので動物病院で便の検査をすると、新たに寄生虫による感染症 「コクシジウム」 と判明。そして購入後3日目、明らかに衰弱している様子だったため再度受診。血圧と血糖値が下がり、重度の肺炎で酸素飽和度も低下。24時間点滴と酸素室が必要で入院したという。 どの病気も単独感染ならば軽症で済むかもしれないが、このように複合感染した場合には血便や脱水、貧血、栄養失調、体重低下などの症状を起こす。ここにケンネルコフを起因した肺炎が加わったために重症となった。どの病気も不衛生な環境で適正な獣医療が施されていないことが原因だ。 このように、環境変化を含むストレスに、抵抗力のない仔犬・子猫を毎週さらし、体調を崩している動物までも販売している。 ■輸送で過度の負担 輸送時の振動、加減速などによる車両の揺れ、乗り物酔いなどによる嘔吐などの臭気、移動販売は幼齢の仔犬・仔猫への負担が大きい。その上、車両に販売する仔犬・仔猫を詰め込んで輸送するので、車両内に病気の犬猫が紛れ込むと、その車両内の他の犬猫が感染の危険に晒される。パルボなどの感染症を各地でばらまいてしまう可能性もある。 そして購入後、たとえ仔犬・仔猫が死んでしまったとしても、事業者は既にイベント会場から撤収しているうえ電話もつながらず、購入者は金銭的にも精神的にも被害を受け泣き寝入りすることになる。 ではなぜこのようなイベントで仔犬・仔猫を購入してしまうのか。移動販売は、インターネットで検索すればその問題点が書かれたページに容易に辿り着くことが出来る。一方で移動販売を行う事業者の開催情報はネットでは公表されない。それは事前に情報が知られると、問題視する多くの市民から開催地の自治体に通報が行くからだ。 だから、開催の1週間くらい前にローカル局でCMを流したり、地域密着型のフリーペーパーに掲載する。ネットの利用率が低い市民には移動販売の実情が届かないようになっていることが問題だ。他にも身近なホームセンターで「100匹大集合!」と銘打ち、いつもはいない場所に仔犬・仔猫が集められ期間限定で開催されることもある。そういう販売会での購入も慎重に検討して欲しい。 ■会場の環境にも問題 さらには、会場の環境にも問題が見られる。適切な温度管理ができない会場での開催もあり、長時間、寒い中置かれることにもある。また、夜間は小動物用の身動きもままならないケージに入れられ、車両に積載される。イベント開催中なら夕方から翌朝10時の15時間くらい閉じ込められることになるのだ。どれほどのストレスがかかるのか、自分に置き換えて考えれば想像に難くない。そもそも環境省の飼養管理基準では、移動販売のために登録された飼養施設には、ケージ等の基準が適用されるため違反だ。それなのに、車両が敷地内にあれば、自治体が車両を登録事業所として認めてしまっている。ということは、基準違反をさせているのと同じなのだ。 ■粗かった法の網 前回の法改正で、登録事業所での対面販売が義務化されたことにより、登録していない場所での1日だけの移動販売は営業が不可能となった。また 「輸送後2日間以上その状態を目視によって観察する」 ことが義務づけられたため、待機2日間は利益ゼロで滞在コストがかかることから、移動販売がやりづらくなり、実質禁止と思いきや、会場を2日前から予約してなんなくクリアしている。売れればそれだけ利益があるということだろう。たとえ法律が改正されて、移動販売の規制ができても、敷地内に車があればよいという、自治体や環境省による事業者側に都合よいこの拡大解釈には到底納得がいかない。何のための法改正だったのか。中途半端な改正だったと言わざるを得ない。 先日9月に開催された超党派動物愛護議連でも移動販売について議論され、愛護団体からも、消費者保護の意味で移動販売は禁止すべきとの意見があがった。またペット業界も「ご提供するような環境が整っていない中では、ジステンバーなどの感染症やパルボウイルスなどの伝染病が間違いなく出る。非常に過酷だしそこで購入した方は大変な思いをされるからぜひやめたほうがいい。」という見解だった。来年の次期法改正では、これまでの事業者に都合のよい解釈が許されることのないよう、犬猫の移動販売禁止は絶対に譲れない。(Eva代表理事 杉本彩) × × × 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。