「誰もがケアを与えることもできる」 人手不足を「サービスの受け手」から考えてないか 人口減を嘆く前に
他人の手が借りられないなら
もう手詰まりだ。 そう思っていました。作家の多和田葉子さんにインタビューするまでは。 取材では、多和田さんの代表作「献灯使」になぞらえながら、介護や子育てなどのケアの人材不足について尋ねました。 多和田さんはケアが売買可能な商品のように扱われていることに違和感があると述べました。 誰もがケアの受け手であり、誰もがケアを与えることもできる。だから今後は「自分がどれだけ与えられるかが大切になってくる」と語りました。 人手について考えるとき、私はいつも無意識に、自身をサービスの受け手と位置付けていました。 自らの手を、人手に勘定していませんでした。他人の手を借りられなくなるなら、自分の手を動かせばいい。頼るべきハンドは、自身の手だったと気づかされました。
負担増か暮らしの見直しか
ただし、多和田さんの言葉通りに、いきなり支え手になるのは、手に余ります。まずは身の回りで、自分の手を動かすことから始めてみたいと思っています。 8がけ社会に向けて、個人ができることは思いのほかありそうだと取材で感じてきました。 例えばごみ収集の現場では、週2回の可燃ごみの収集を維持できるかが課題になっています。もし各家庭のごみの量を減らすことができれば、収集の頻度も減らすことができそうです。収集作業員にはなれなくても、ごみを出さない暮らしはできます。環境にも優しい。 市民に「歩くこと」を促している自治体もありました。 高齢者が増えて病院や介護施設のひっぱくが見込まれますが、増えるのが健康な高齢者であれば、財政や現場への負担は軽減できます。医者や介護福祉士にならなくても、エッセンシャルワーカーの負担を減らすことはできます。 ハンドに任せっぱなしにしないこと。切り離してきた生活の一部を、手の届く範囲に取り戻すこと。それを負担増ととらえるか、自身の暮らしを見つめ直す契機ととらえるか。 それぞれの手に委ねられているのでしょう。 ◆ 10月25日から31日まで開かれる国際シンポジウム「朝日地球会議2024」では、「『8がけ社会』を生きる」をテーマに、リクルートワークス研究所の古屋星斗さん、作家の九段理江さん、小説家の川村元気さんを招いたセッションを行います。 25~26日は、東京ミッドタウン八重洲カンファレンスでリアル開催、27~31日はオンライン配信のみの開催です。メインテーマは、「対話でさぐる 共生の未来」です。 「『8がけ社会』を生きる」は、26日に登場します。未来を前向きに生きるヒントを、古屋さん、九段さん、川村さんとともに考えます。 セッション後にはアフタートークがあり(当日、整理券を配布)、九段さん、川村さんの著書の販売とサイン会も予定しています。 参加費は無料。リアル開催は10月16日まで登録を受け付け中です。登録は特設サイト(https://t.asahi.com/awfwn1)から。