習近平氏への不満が社会全体に充満、「次の時代」に備えよ 政治体制転換は日本の利益【中国の今を語る②】
習氏は本気で国際秩序を転換したがっている。「先進国と途上国の不合理な関係を是正する」という中国の主張自体がおかしいわけではない。ただ国際秩序の多極化とか、人類運命共同体などと唱えても、実際の行動は覇権的だ。自国民の人権すら尊重しない。世界を率いるというなら、まず国際社会を納得させるモデルを持たなければならない。 欧州の対中認識には重大な変化が生じている。習氏が改革を後退させたことで、中国が開放や自由化に向かうとの幻想は消えた。またウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領を、習氏は支持した。プーチン氏は欧州の安全保障を脅かしている。ロシアを支持することは、欧州を脅かすことだと見なされる。欧州との関係は悪化し続けており、改善の要素は見当たらない。 ▽ゼロコロナで支持失う 習氏は共産党総書記就任当初こそ支持や期待は大きかったが、弁護士や記者、教師ら知識人を取り締まったことで自由派の支持は低下した。同時に党・政府内のエリートの不満も大きくなった。一方で釣魚島(沖縄県・尖閣諸島の中国名)や南シナ海で強硬姿勢を示してナショナリズムを刺激しており、愛国主義者の支持は大きい。
習氏への不満は政治的なエリートから中間層、そして社会全体に広がりつつある。その原因は(強権的な手法で新型コロナウイルスの感染拡大阻止を図った)「ゼロコロナ政策」だ。それに景気低迷も重なり、支持は下がっている。 明日に何らかの変化が起きても驚かない。社会心理の変化は非常に複雑で早い。社会は見かけほど安定しておらず、むしろ極めて不安定だ。だからこそ民主化によって閉塞感を打ち破らなければならない。 日本のエリートや政治家には、中国の多様な可能性を想定し、将来に備えてほしい。日本は北京が台湾に侵攻するかどうかにばかり関心を持っているが、中国のさまざまな勢力とどう付き合うかも考えてほしい。最も重要なことは、「ポスト習近平時代」を想像し、備えることだ。 ▽文明刷新の競争 中国と日本の関係は近代以来、非常に独特であり続けている。他の国が果たせない役割を果たすこともできる。日本は東方の国家であると同時に西側国家の側面もある。これこそが日本の成功の土台となっている。中国の模範となり得る。日本にはソフトパワーを活用し、中国人に東方文明の可能性を示してほしい。またできる限り、中国の人権や民主化に関心を持ち、中国の転換を後押ししてほしい。それこそが日本の根本的な利益だ。近代以来、両国は地政学的な競争を繰り広げてきた。21世紀の競争は「文明イノベーション」の競争であるべきだ。環境や高齢化、社会保障の分野で協力できる。東アジアにどのような文明刷新を起こすかで競い合ってほしい。
中国の現状は、かつて軍国主義時代の日本と似ている。日本は歴史の教訓を中国に伝え、今のままでは災難をもたらすと教えてほしい。 × × × 張倫氏(ちょう・りん)1962年、中国・瀋陽出身。1980年代に北京大在学中、中国経済や政治体制改革を研究。1989年に民主化要求運動に参加、当局が運動を武力弾圧した天安門事件が起きた後、指名手配され、フランスに亡命。CYセルジー・パリ大教授(現代中国)やAGORA研究所研究員、フランス人間科学研究財団(FMSH)中国研究プロジェクト責任者などを務める。